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三島由紀夫の謎

 私たちの世代で 「小説が好き」 などと自称する人間は、たいてい、好きか嫌いかは別として、 「三島由紀夫」 という作家の本を、読むか読まないかは別として、語ったものである。

三島由紀夫01

 今の時代、 「小説好き」 とかいう人々が集まる場で、この作家が話題になることはあるのだろうか。
 きっと熱烈なファンはいるだろうから、どこかで崇拝者たちの集まりというのはあるのかもしれないが、私の周辺では、もう三島由紀夫という固有名を聞くことはなくなった。

 それは、ひとつには、いまだにあの不可解な割腹自殺が尾を引いて、彼のファンであった人々も、それを 「自分史」 の中にどう位置づければいいのか分からないという戸惑いがあるからだろうと思うのだが、もうひとつは、結局、三島が生前世に問うていた “三島的問題” というものが、今の日本には何も残っていないという事実があるからかもしれない。

 私も “時代の子” であったから、三島由紀夫という作家の著作はけっこう読んでいる。
 処女作の 『花ざかりの森』 に始まり、デビュー作ともいえる 『仮面の告白』 、吉永小百合や山口百恵などが出演する映画で評判を取った 『潮騒』 、金閣寺の放火犯を主人公にした 『金閣寺』 、2・26事件をテーマにした 『憂国』 、 『英霊の声』 といった話題作もフォローしたが、 『私の遍歴時代』 や 『文化防衛論』 のようなエッセイにも目を通している。

 が、はっきり言って、面白いと思ったものはひとつもなかった。
 かろうじて処女作を含む、ごく初期の短編数編にはものすごく感動したけれど、彼が大人になってから書いたものは、ほとんどピンと来なかった。

 誰もが寄せる感想なので、それをここで繰り返す必要はないのかもしれないが、一言で三島作品の印象を語ってしまうと、どの小説からもリアリティというものが感じられないのである。

 ところが、彼はこんなことをいったらしい。
 「私は、現実には絶対にありそうもない出来事をリアリスティックに書く」 (『盗賊ノート』)
 
 この言葉を、どこか別の本で読んだとき、 「不思議なことを言う人だな」 と思った。
 私の印象では、現実によく起こりそうな出来事を、きわめて観念的に書く作家というイメージがあったからだ。

 “リアリスティック” に書かれたものが、リアリティを保証するとは限らない。

 三島由紀夫は、たとえば、金閣寺に放火する若い僧の内面を、彫刻を刻むがごとくに、精緻に巧妙に穿っていくが、そこで描かれる人間の内面世界は、 「美への希求」 とか 「美への嫉妬」 などという抽象化された観念に過ぎず、生身の人間の手触りがごっそりと抜け落ちている。

 表から見ると壮麗な大伽藍に見えながら、中に入ると、きわめて貧しい抽象的観念だけを 「本尊」 とした、空虚な祭壇しか見えないという感じなのだ。

 新刊が出れば、一応は気になった作品は読んではみたが、その感想をたとえば読書好きの誰かと語ってみたいという気は全く起きなかった。

 しかし…である。
 三島由紀夫自身が書いたものにはほとんど興味を覚えなかったのに、三島をテーマにした批評家たちの書く“三島論”には、次から次へと圧倒されて、触発された。

 いちばん最初に読んだのは磯田光一の 『殉教の美学』 だったが、磯田氏の批評の方が、三島自身の書いたどの著作よりも数段面白くて、刺激的だった。

 磯田氏の三島由紀夫論は、セルバンテスの書いた有名な 『ドン・キ・ホーテ』 の紹介から始まる。

ドンキホーテ01
 ▲ あ、間違った…下が正解
ドンキホーテ03

 中世の騎士の時代が終わったにもかかわらず、騎士を気取るドン・キ・ホーテは、従者のサンチョ・パンサと二人で 「騎士道を生きる旅」 を続ける。

 キ・ホーテは、ただの風車を伝説上のドラゴンと間違えて戦うような人で、いわば狂人である。

ドンキホーテ風車

 「騎士道」 などというメンタリティが何の意味をなさない時代になったにもかかわらず、誇大妄想に取り付かれたキ・ホーテは、騎士としてのプライドとロマンを求めながら旅を続ける。
 そのキ・ホーテを、正気のサンチョ・パンサは、主人の狂気にうんざりしながらも忠実にケアしながら付き従う。

 だから、この物語は、現実を錯誤して虚しい空騒ぎを続ける “狂人” と、現実を直視する “理性の人” の物語と読めないことはない。

 そして、多くの人はこの物語の中に、滅び行く中世的ロマンの世界を生きるキ・ホーテと、勃興する近世の合理主義精神を生きるサンチョ・パンサという、時代が交代するときの 「寓話」 を読み込んだという。

 そんな主従の珍道中を描いた物語を、批評家の磯田光一氏は突然取り上げ、その 「ドン・キ・ホーテこそ三島由紀夫だ!」 と言い放ったのだ。

 ただし、
 「キ・ホーテが、風車がドラゴンと間違えたのではなく、風車を風車として、しっかり見抜いて戦ったのだとしたら?」
 という懐疑を提出したのだ。

 時代錯誤を生きる狂人キ・ホーテは、そこでにわかに今の時代そのものと戦う孤高の戦士という相貌を現してくる。
 「三島由紀夫という作家は、そのような人間だ」
 と、磯田光一氏は定義づけたのだ。

 この磯田氏の語り口に、青天の霹靂ともいう衝撃を受けて、若い私はいたく感動したものだ。

 続いて、野口武彦氏の 『三島由紀夫の世界』 という三島由紀夫論を読んだけれど、これも三島自身が書いた作品をはるかに凌駕するくらいの面白い評論だった。

 これは、三島をドイツ・ローマン派の文脈の中に位置づける作品で、三島を 「ロマン主義的人間」 と定義することによって、きわめてオーソドックスな浪漫派美学を描ききった。

 こいつにも相当ヤラれた。
 さっき記憶を確かめるために、本棚から取り出してみたら、やたらとアンダーラインが引いてある。

 「ロマン主義文学は、はじめから挫折を約束された文学である」
 なんていうところに、力強く傍線が引かれているのを見て、自分にも野口武彦の目線を通して見た三島由紀夫に相当入れ込んでいた時代があったことを思い出した。

 私は、磯田光一と野口武彦の 「三島論」 が双璧という感じを抱いているが、その後も岸田秀、野坂昭如、橋本治という人々が、ことあるごとに三島論を書いた。
 こんなに三島を語る人たちが多いということは、大いなる驚きであったが、ある意味で、 「当然」 という気もした。

 なぜなら、三島の書いたものの中に、文学としての謎のようなものは何一つなかったけれど、彼が次々と繰り広げる奇怪な実生活は、いつも謎に満ちたものばかりだったからだ。

 いきなりボディビルを始めて、筋骨隆々たる肉体を作ってみたり、映画にチンピラやくざの役で出演してみたり、自衛隊に体験入隊してみたり、今のディズニーランドにも似た虚構のフランス風邸宅を築いてみたり、エキセントリックな天皇制護持者として東大全共闘と討論してみたり、おもちゃの兵隊を集めたような 「楯の会」 を結成してみたり、…やることなすこと奇怪なことばかりだった。

からっ風野郎

 私は、いちおう 「知性の人」 という意識で彼のことを見ていたから、彼が何で次から次へと 「反知性的」 な行動をマスコミの前でさらすのか理解できなかった。

 彼の初期の作品や言動には、どれもヨーロッパ風味の 「エロス」 と 「タナトス」 に満ち満ちていて、私は、むしろ西洋型知性を謳歌する人なんだろうな…という期待を持っていたのだ。

 それが、突然胸板の厚みを誇るマッチョマンになって、あれれ? あれれ?
 …という間に、 “ギャグの人” になってしまって相当面食らった。

三島と日本刀

 きっと、何か “深い” 意味があるんだろう…。
 そう思うしかなかった。

 そこで登場した磯田光一氏の 『殉教の美学』 。
 ははぁ…。彼のドン・キ・ホーテ的なもの狂いは、やはり、彼の冷徹な認識に裏づけられた、孤高の戦士の哀しみであったのか。
 …とか思ってしまったのだ。

 しかし、いま考えると、三島由紀夫のピエロ的パフォーマンスの数々は、結局は自分の作品の貧しさを覆い隠すための必死な “演技” でしかなかったように思う。

 彼は、結局 「観念」 に生きる人間を描き続けたわけだが、人間の 「観念」 などというものは、時代によってコロコロ変わる。
 そのため、彼は奇怪なパフォーマンスを繰り広げることで、自分の古びた 「観念」 を、何か “奥行きのあるもの” のように仕立て直さなければならなくなる。

 「観念」 というものが、それでも意味のあるものだという信仰があった時代にはそれも通じたが、 「観念」 そのものが必要視されなくなったポストモダンの時代になると、万事休すとなってしまう。

 彼は 「作家」 というよりも、ある意味で優秀なジャーナリストであったから、あの時代に、来たるべきポストモダンの世界像が見えていたのかも知れない。

 そのとき、自分の 「作品」 を永遠に残す会心の方法が、彼の脳裏にひらめく。

 それが、市ヶ谷の自衛隊駐屯地に乱入して、決起 (クーデター) をうながし、その後に自らの腹を開いて自死するという、あの 「謎」 の割腹自殺事件である。

 なぜ 「謎」 かというと、彼の真の目的が、誰にも分からなかったからである。

 一部の人たちは、彼の 「熱い憂国への情」 に素直に涙したけれど、多くの知識人も庶民も、ただ唖然としただけで、彼の行動の意味を捉え損ねて、沈黙するしかなかった。

三島由紀夫01

 今から思うと、あれは自分の作品を 「永遠の価値」 として保存するための、一世一代の大博打だったように思う。
 彼の不可解な死によって、残された貧しい作品もすべて魅力的な 「謎」 に変わったからだ。

 「彼の書いたものには、きっと読者が理解できないような、何か深い意味が潜んでいるはずだ」
 一時 (いっとき) であったかもしれないが、そのような効果は実際にあった。

 なぜ、このような古い話を急に書くつもりになったかというと、少し前に読んだ大塚英志さんの 『物語論で読む村上春樹と宮崎駿 - 構造しかない日本』 という本の中で、非常に示唆的なエピソードが紹介されていたからである。

 それは、映画監督のヒッチコックが、 「謎」 の仕掛け方の究極の方法を見つけたという話だった。

ヒチコック01

 大塚氏の記述を噛み砕いて紹介すると、次のようなことになる。

 ヒッチコックがある日、列車に乗ると、外国人ふうの男たちが 「マクガフィン」 なるものについて話していることに気づく。
 ヒッチコックはその会話につい耳を傾けてしまうが、話を聞いているだけでは、 「マクガフィン」 が何のことだかさっぱり分からない。

 分からないので、よけい知りたくなり、聞き耳を立てながら、あれこれと推測するのだが、やはり分からない。

 そこからヒッチコックは、映画に観客をひきつけるためには、作中に 「マクガフィン」 を一つ配置すればいいのだと思いつく。

 つまり、登場人物にあれこれと 「謎」 の周辺を語らせるけれど、 「謎」 の正体そのものは語らせない。
 すると、映画の観客は、そのもどかしさに耐えられず、どんどんその 「謎」 の真相を知りたくて、作品を過剰に読み込んでいく。

 結局、 「マクガフィン」 そのものには何も 「意味」 がないのだけれど、その 「中身」 を欠いた空虚さが、ブラックホールのように観客の意識を吸い込んでいく。

 これが大塚氏が紹介する 「ヒッチコックのマクガフィン」 の概要だが、彼はこのエピソードを、村上春樹の小説を説明するための補助線として使った。
 しかし、私はそのとき、この話から三島由紀夫の割腹自殺の方を思い出した。
 彼の割腹自殺は、 「三島流のマクガフィン」 であったか…と、ようやくそこに思い至ったのだ。

 そうだとしたら、素直に頭が下がる思いもする。
 これ以上の 「マクガフィン」 を設定することは、もう誰にもできないだろう。

 三島由紀夫は最初から “マクガフィンの人” で、磯田光一氏も野口武彦氏も、みなそのマクガフィンの魅力に引っかかったのだ。それはそれで、三島の凄さだなぁ…とは思うけれど。

 このヒッチコックの 「マクガフィン」 を紹介した大塚英志氏は、文学の無効性を主張する一方で、それでも 「近代文学」 をもう一度見つめ直さなければならないという使命を自分に課す。

 しかし、日本の 「近代文学」 なるものは、三島由紀夫を近代文学の立役者として認めた時点において、すでに死んでいたのかもしれない。
 日本において、ポストモダンなどという言葉がささやかれる前に、すでに 「近代文学の死」 を宣告してしまったのは、ひょっとして三島由紀夫ではなかったか。
 今ではそう思う。

 「近代文学」 なるものが、 「物語」 の “自意識” として生まれてきたものだとしたら、日本において、その “自意識” を究極の形まで追求したのが三島由紀夫だった。

 つまり、彼の作品は、作者の自意識が純粋な観念として結晶したものばかりである。
 そこには 「人間性」 も、 「悪魔性」 も、 「美学」 も、 「死の意識」 も、 「超越性」 もすべてあるが、 「人間」 も、 「悪魔」 も、 「美」 も、 「死」 も、 「超越」 もない。
 あるのはすべて三島由紀夫という明晰な頭脳がつくり出した 「観念」 でしかない。

 そこには、近代文学と近代芸術が抱え込んだ、どこかザラザラした、不透明で混沌とした 「人間の手触り」 というものがない。
 そのことに最も深く気づいていたのは、実は三島由紀夫自身ではなかったかと思う。


音楽&映画&本 | 投稿者 町田編集長 01:35 | コメント(4) | トラックバック(0)
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