町田の独り言 キャンピングカーのガイド本を編集する町田が語るよもやま話

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ウェブは暇人の物

 『ウェブはバカと暇人のもの』 (中川淳一郎・著 光文社新書)
 というタイトルの本がある。
 なんともまた挑発的な題名をつけたものだと思うが、気楽に読めそうな気がしたので、気分転換にちょうどいいか…ぐらいの気持ちで読み始めた。

ウェブはバカと暇人のもの

 著者は、ニュースサイトの編集に携わってる 「ネット漬けの日々を送っている」 人で、 「リアルな現実を、現場の視点から描写」 したという。

 それによると、ネット世界というのは、すぐ他人を 「死ね」 「ゴミ」 「クズ」 と罵倒しまくる人か、アイドルの他愛ないブログなどに 「激かわゆす!」 と絶賛コメントを寄せる人か、もしくはミクシィか何かに 「今日のランチはカルボナーラ」 みたいなどうでもいい書き込みをする人ばかりに満たされた 「気持ち悪い世界」 なんだそうだ。

 世の中には、インターネットの世界を 「情報革命」 のように持ち上げ、ネットが普及した社会を “人類の理想社会” のように捉えるI Tジャーナリストたちがいるが、実情はおよそかけ離れている、というのが著者の感想である。

 そして、ネットに過度な期待を寄せてネット (ウェブ) 戦略に力を入れている企業が増えているが、ほとんどはネットの本質を理解していないために、ことごとくプロモーションに失敗している、という。

 …と書くと、この著者はまったくウェブ世界を否定しているかのように見える。
 現にサブタイトルが 「ネット敗北宣言」 なのだから、 「ネットなんてあほらし」 というのが、この本の結論であるように思える。

 しかし、よ~く読んでみると、この本はネット世界をそのものを否定しているのではなくて、 「ネット世界に対する過剰な期待」 、 「誤った先入観」 、 「見当はずれの神聖化」 を是正するというモチーフに支えられた本であることが分ってくる。
 
 一般的なメディアが、いかにネットを誤解しているか。

 その代表的な例が、 「テレビの凋落とネットの隆盛」 という思考法。
 昨今、テレビの影響力低下に危機意識を感じたスポンサーが、宣伝費をテレビからネットへシフトする傾向を強めているが、著者はそれをまったくのナンセンスだと言い切る。

 というのは、ネットのブログなどで採りあげられる話題の大半は “テレビネタ” であり、アクセスが集中するのも、そのようなテレビネタを扱ったウェブ情報だからだ。

 つまり、ネットというのは、基本的にテレビで放映された情報に共感する人たちの “コミュニティ” であり、テレビで糾弾された人や企業を罵倒しあう人々の “社会” であると著者はいう。

 もちろん、ネット社会に情報を提供するメディアは、テレビだけではない。 
 新聞も雑誌もある。

 しかし、新聞や雑誌で大スクープになったような記事でも、それがテレビに取り上げられない限り、ネットで話題になることはほとんどない。

 その理由を、著者は次のように説明する。
 「ネットに頻繁に書き込むようなヘビーユーザーは、テレビを見ても、わざわざカネを払ってまで新聞や雑誌を買わない」

 要するに、こういうことだ。
 ネットに頻繁にアクセスし、自己顕示欲に駆られたブログを日々更新したり、他人の記事に頻繁にコメントを入れたりしているヘビーユーザーというのは、ネットが安い娯楽であるからそうしているのであり、ネット以外の趣味にお金をかける余裕もなく、その意欲もない。

 つまり、お金がかからず、家にいるだけで世間の動きが分るテレビを情報源にしている人々とユーザー層が重なる。

 だから、ネットヘビーユーザーというのは、基本的に、持て余すほどの時間に恵まれたヒマな学生、ニート系若者、専業主婦、退職してからパソコンになじんだ発言意欲に富んだ老人ということになる。

 一方、現役でバリバリ仕事をこなし、新聞や雑誌を買ってまで貴重な情報を得ようとする忙しい人たちは、そのネタをわざわざ親切にネットに書き込むようなことはしない。

 ユーザー層のこういう構造があるために、新聞・雑誌というペーパー媒体の情報がネットで流通する率はきわめて低く、逆に、テレビを情報源とした話題は無尽蔵に広がっていく。

 著者はいう。
 「ネットによって人々の嗜好・生き方が細分化されたというのはウソである」 。

 つまり、ネットは人々の 「行動様式の多様化」 、 「趣味嗜好の細分化」 などを促進するように見えながら、実は人々の 「均一化」 を促がしている……というわけだ。

 ネット言論に参加しようとする人々は、テレビで興味を持った話題を詳しく知るために、圧倒的な集客力を持つ 「ヤフートピックス」 で同じニュースを探し、そこからヤフーの担当者が貼ったリンクへ飛ぶ。
 結果、同じ情報がぐるぐると回り、同じような感想が無数に乱立する。

 だから、テレビ関係者がネットへの危機感を高めているのとは裏腹に、ネットの方がテレビへの依存度を高めているのというのが実情らしい。

 著者は、次のような指摘を行う。
 「テレビ番組の企画者も、スポンサーも、広告代理店も、あまりにもネットへの研究が足りない」。

 そのため、ネットへの過度な期待が広がり、ネットを広告・宣伝媒体にしようともくろむ企業人と広告代理店の間では、次のような会話が交わされる。
 
 「新しい商品を浸透させるには、ブログなどで高密度の情報を発信している人々の注目にとまることが肝心。
 そのような、感度が高く、常に流行を気にし、目利きができている人々を巻き込み、彼らをハブ (中心) にして、そこからクチコミを巻き起こすことが大事」

 ところが、このような宣伝戦略は、まず成功したためしがない。
 成功したように喧伝される例がいくつがあるが、同じ例ばかり採りあげられることを考えると、それがたまたまうまくいった例外的な成功例だからだ。

 このことは、ネット発のスターがいないことを考えてみても分る。

 ネットから浮上した有名人、スターがどれだけいることか。
 ネットでの情報公開がきっかけとなり、本まで出版された例はいくつか挙げることができるが、その存在のほとんどはネットを知らない人たちには知られていない。

 逆に、テレビに頻繁に顔を出すタレントのブログは、アクセス数が1日数万件に及ぶ。
 つまり、「ネット対テレビ」 という構図をつぶさに見てみると、テレビの影響力の絶大な大きさに比べ、ネットの力は微々たるものでしかない。

 だから、企業のネットを通じた広報・宣伝戦略は、ネットの本質を理解しないかぎり、ほとんど意味をなさない。 

 著者はいう。
 「ネットでブランディングは不可能」

 多くの企業は、ネットでその商品のブランドを確立しようとするとき、ほとんど雑誌広告やテレビCMをイメージして考えている。
 つまり、 「美しく」 、 「カッコよく」 、 「スマートで」 、 「人々に善をもたらし」 、 「遠い憧れであるもの」 。

 しかし、ネットで支持されるテーマというのは、 「身近で」 、 「突っ込みどころがあり」 、 「どこかエロくて」 、 「バカみたい」 な企画なのだ。

 著者のナマの声を、ちょっと引用。

 「ネットは、人々の正直な欲求がドロドロと蠢 (うごめ) いている場所なんです。
 たとえば友達と飲んでいるときに、 『このビールはコクがあってノドゴシがスッキリだね』 、 『そうだね、やはり酵母の力が生きているからじゃないかなぁ』 なんて話しますか?
 ビールについて居酒屋で語るときは、 『それにしても、ビール飲むとなんでこんなにたくさんションベンが出るんだよ!』 みたいな話をしませんか?」

 それが人々の関心事であり、 「語りたい内容」 であり、ネットもこれと同じだ、というわけだ。

 要するに、 「ネットは居酒屋だ」 というのが、著者の結論である。

 居酒屋のワイザツさ、下品さ、気楽さが、居酒屋に寄りたくなる人たちの求めるものであり、人々はそこで 「タテマエよりはホンネ」 、 「カッコつけよりは、バカさらけ出し」 がまかり通る瞬間を楽しむ。
 そこに居合わせる人たちは、時には隣りの席の会話を小耳にはさんでツッコミを入れ、時には議論をふっかけ、最悪ケンカも起こるが、そのような自由奔放な気分に一時だけ酔う。

 人々がネットに求めるものも、基本的には変らない。

 それが著者の長年の経験から導き出された結論であり、そこに著者の 「失望」 があり、 「落胆」 があり、同時に 「希望」 があり、 「可能性の模索」 があると読んだ。

 読み物としては面白かった。
 語り口もうまいので、すらすら読めた。2時間程度の読書だったと記憶する。

 ただ、私はネットがすべて、この著者のいうような方向で一元化されているとは思わない。
 著者のいうことは、ひとつの “傾向” であって、本自体にセンセーショナルな話題性を付与するために、あえてその “傾向” を誇大に採りあげたという感じもする。

 現に、私が自分の 「お気に入り」 に採りあげて定期的に閲覧しているネット情報などは、時にテレビどころではなく、雑誌や新聞にも掲載されていない独自情報であったり、書き手のユニークな思想が吐露されているものであったり、読んでいてハッと心を打たれて、リンクを張りたくなったり、引用したくなるものが多い。

 居酒屋でも、テレビネタで盛り上がり、タレントの口真似で女性を笑わせている座もあれば、目を吊り上げて環境問題や政治問題を熱く論じている座もある。

 人さまざまなんである。

 ただ、ネットで商品のブランディングをもくろむ企業人たちは、今の方向を考え直した方がいいという主張は面白かった。

 ネットを通じて、ブランディングを進めようと思うのなら、むしろバカ丸出し、突っ込みどころ満載で、 「コケにされることで露出度が上がる」 と割り切らなければならない。
 ただし、それがその企業のオエライさんたちの意図する 「ブランディング」 とは異なるかもしれないが…。

 そういう著者の主張は、ある意味で、逆にネットの可能性を示唆するものであるかもれしれない。

 コケにされても露出度が高まればいい、と割り切る宣伝姿勢があるのなら、それはその企業の立派な 「戦略」 になりうる。
 ネット世界には、コケにして嘲笑う人々もいれば、そういう人々に反発して、それとは反対の意見表明をしたがる人々も同じくらい存在する。
 
 そのような “振り子的な運動性” を持つのがネットの特徴だ。

 一方的な 「エエカッコシー」 は、ネットの精神ともっとも反するものであるという指摘は、ひとつの教訓であった。


音楽&映画&本 | 投稿者 町田編集長 00:04 | コメント(0)| トラックバック(0)
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