町田の独り言 キャンピングカーのガイド本を編集する町田が語るよもやま話

最近の記事
新ブログのご案内
04/28 17:06
久々の更新です
04/27 19:06
3・11以降
04/12 09:56
人類に残された資源
04/05 10:18
ザ・ウォーカー
04/03 00:53
島尾敏雄・贋学生
04/02 03:45
日本人は変わるか
03/31 01:36
渚にて
03/26 02:03
テレビは終わった
03/23 00:23
明かりの果ての闇
03/21 08:05
東電を怒る父さん
03/18 17:00
深い言葉
03/16 09:53
何かが変わった
03/15 00:06
災害時のキャンカー
03/13 16:18
大地震
03/12 13:16
ジュリアンオピー
03/11 02:35
親孝行ビジネス
03/08 20:02
OMCの北斗
03/07 00:18
アレクサンドリア
03/05 15:49
AtoZのバンビ
03/03 20:36
かるキャン
03/02 18:39
ハーレーの魔力
02/28 21:59
パークウェイ
02/23 18:59
CG880
02/20 13:11
忙しいぞぉ!
02/18 22:01
都市型キャンプ場
02/09 23:55
ファビュラス日本
02/07 19:32
老人の孤独
02/06 20:36
「都会」 の匂い
02/05 01:53
エジプトでは何が?
02/04 15:44
同人雑誌仲間
02/03 00:20
自己啓発ビジネス
02/01 02:10
ノスタルジー
01/30 05:23
夫婦の会話の危機
01/28 23:58
その一服は必要か
01/24 23:40
荒野の炎
01/23 19:43
山口冨士夫の精神
01/22 03:11
焚き火で育つ感性
01/20 19:55
キャンカー1人旅
01/19 01:37
車中泊の社会実験
01/17 15:40
個人の時代
01/16 11:50
細くなるネクタイ
01/13 20:32
映画アバター
01/12 20:07
若者の考える商売
01/11 14:36
パリッシュの絵画
01/09 04:00
300万アクセス
01/08 12:15
不思議な青空
01/07 21:04
TV・新聞の凋落
01/06 19:44
中国ルネッサンス
01/05 20:19
ベルイマン・沈黙
01/04 21:33
出来事いろいろ
01/03 02:43
謹賀新年
01/01 00:48
オールドマン
12/30 18:53
好奇心の力
12/29 14:28
「孤独死」の原因
12/27 20:17
廃墟のある島
12/26 02:48
遠いクリスマス
12/25 01:06
ロビン・フッド
12/24 03:48
地獄の電車
12/23 11:35
バッグス・バニー
12/22 02:59
正義の話をしよう
12/19 23:46
空気人形
12/18 13:10
ジジイ同士の酒
12/17 04:32
世界ゲーム革命
12/14 02:47
ハイマー懇親会
12/13 16:11
ガールズキャンプ
12/12 23:48
イタリアをめざせ
12/10 15:15
外来種の驚異 Ⅱ
12/09 00:41
外来種の脅威とは
12/08 20:46
Kポップの台頭
12/07 01:19
うつろひ
12/06 01:21
海老蔵さんの悲劇
12/05 01:07
追悼ジョンレノン
12/03 04:52
「個性化」のワナ
11/30 04:13
戦うブログ
11/29 04:09
子供の自然体験
11/28 04:50
RV好きの芸能人
11/26 01:01
胃の中にヘビ
11/25 16:12
消えた秋
11/22 14:14
歌謡ブルースの謎
11/20 04:29
おひとりさま時代
11/19 00:33
3行で総てを語る
11/18 00:15
塔の形而上学
11/17 02:04
裕次郎スナック
11/15 23:10
自然は子供を養う
11/12 20:28
おれ、ねこ
11/10 01:19
NHK車中泊報道
11/09 17:17
お台場パラダイス
11/08 20:34
伝える力
11/05 00:12
お台場ショー迫る
11/04 02:02
昔は戻らない
11/03 02:11
電子タバコ
11/02 00:04
一般国道の不思議
10/29 18:25
酒場放浪記
10/26 22:25
名古屋RVショー
10/25 19:25
ハイマーカー322
10/21 12:31
猫会議
10/21 00:05
飽きるという知恵
10/20 01:28
ロボット兵器
10/19 02:52
最近のコメント
突然の書き込み失礼…
最近の流行 05/12 00:01
はじめまして~文…
すまそ 05/08 16:44
>TJさん、ようこそ…
町田 04/28 13:47
>TJさん、ようこそ…
町田 04/28 12:06
便利+楽=快適、これ…
TJ 04/28 10:05
町田さん久しぶり…
motor-home 04/28 06:07
やはり、時代の変化・…
TJ 04/21 02:27
私はこのところ「自然…
磯部 04/12 14:52
>aki さん、よう…
町田 04/12 10:18
何度も投稿ボタンを押…
aki 04/08 10:57
>aki さん、よう…
町田 04/08 09:13
今のVWに乗り換える…
aki 04/07 15:19
>雷さん、ようこそ。…
町田 04/06 15:20
>ミペット@倉庫の肥…
町田 04/06 13:46
>JoeCoolさん…
町田 04/06 11:06
キャンピングカーは、…
雷 04/05 21:37
率直に言うと、研究所…
ミペット@倉庫の肥やし保存中 04/05 20:10
町田さま度々失礼…
JoeCool (in Peanuts) 04/05 12:56
>aki さん、よう…
町田 04/05 11:14
今のこの国の空気、ど…
aki 04/04 10:32
>solocarav…
町田 04/01 11:08
>JoeCool さ…
町田 04/01 10:32
>ムーンライトさん、…
町田 04/01 09:56
>赤い屋根さん、よう…
町田 04/01 08:53
「心に届く言葉」・・…
solocaravan 03/31 23:23
今回のように社会全体…
雷 03/31 23:05
米国では9.11の前…
Jo 03/31 11:21
米国では9.11の前…
JoeCool 03/31 11:19
米国では9.11の前…
JoeCool 03/31 11:05
そうだ、普遍性だ。…
ムーンライト 03/31 09:31
町田さんおはようござ…
赤い屋根 03/31 07:50
>おおきに! さん、…
町田 03/30 15:47
>雷さん、ようこそ。…
町田 03/30 14:57
>雷さん、ようこそ。…
町田 03/30 14:33
町田編集長さん こん…
おおきに! 03/29 08:29
今回の震災では、各局…
雷 03/28 21:22
本作品のリメイクであ…
雷 03/28 21:09
>おおきに! さん、…
町田 03/23 19:54
町田編集長さん こん…
おおきに! 03/23 07:48
>s-_-s さん…
町田 03/23 01:19
>ムーンライトさん、…
町田 03/23 00:46
人間は電気によって闇…
s-_-s 03/22 22:55
追記です。先ほど…
ムーンライト 03/22 14:24
数日前、市内の大型ス…
ムーンライト 03/22 12:24
>ブタイチさん、よう…
町田 03/22 03:09
お久しぶりです。町田…
ブタイチ 03/21 22:54
>鈴木様、ようこそ。…
町田 03/19 23:12
>ムーンライトさん、…
町田 03/19 22:35
今日、店からはじめて…
デルタリンク宮城 03/19 19:40
この「東電を怒る父さ…
ムーンライト 03/19 11:45
>ゆんたさん、ようこ…
町田 03/19 09:11
言葉に出して誰かに代…
ゆんた 03/19 07:50
>鈴木 様本当に…
町田 03/18 00:00
町田さん、ご心配あり…
デルタリンク宮城 03/17 20:52
>鈴木様コメント…
町田 03/17 16:04
>TOMYさん、よう…
町田 03/17 14:39
町田さんこんにちは。…
デルタリンク宮城 鈴木 03/17 11:32
こんばんは、町田さん…
TOMY 03/16 20:23
世界中に5億人を超え…
フェイスブック 03/15 11:30
>s-_-s さん、…
町田 03/14 00:28
町田さんご無事で何よ…
s-_-s 03/13 22:55
>ムーンライトさん、…
町田 03/12 17:43
町田さん。ご無事でし…
ムーンライト 03/12 16:25
>YAMAさん、よう…
町田 03/12 13:33
シンプルな風景画、い…
Yama 03/11 12:14
>渡部竜生さん、よう…
町田 03/10 02:33
>キャンピングカーと…
渡部竜生 03/09 14:02
>スパンキーさん、よ…
町田 03/08 19:22
いいですね、北斗。久…
スパンキー 03/07 13:52
>マッキー旅人さん、…
町田 03/03 22:45
町田さん、今日は。…
マッキー旅人 03/03 16:23
>ムーンライトさん、…
町田 02/28 22:42
町田さん。アマゾ…
ムーンライト 02/24 10:29
>渡部竜生さん、よう…
町田 02/19 05:42
>小平の福ちゃん様、…
町田 02/19 05:31
>matsumoto…
町田 02/19 05:18
>solocarav…
町田 02/19 05:03
>el さん、ようこ…
町田 02/19 04:50
>旭川の自称美女さん…
町田 02/19 04:14
幕張ではお世話になり…
渡部竜生 02/19 00:58
ご無沙汰しております…
小平の福ちゃん 02/19 00:03
お久しぶりです。ma…
matsumoto 02/14 07:35
ぜひ実現させたいアイ…
solocaravan 02/11 20:59
だいぶ経ってからのコ…
旭川の自称美女 02/11 11:51
町田さん、こんにちは…
el (エル) 02/11 11:11
>TOMY さん、よ…
町田 02/10 00:21
こんばんは、町田さん…
TOMY 02/09 21:45
>ムーンライトさん、…
町田 02/09 15:38
>ゆんた さん、よう…
町田 02/09 14:48
>Joe Cool …
町田 02/09 13:46
>磯部さん、ようこそ…
町田 02/09 11:54
「ゆんたさん」の文章…
ムーンライト 02/09 11:46
>TJさん、ようこそ…
町田 02/09 11:22
色々なことを考えまし…
ゆんた 02/09 06:36
同居していて5年前に…
JoeCool 02/08 16:01
最初に、このブログを…
磯部 02/08 05:14
写真で見る限り「FA…
TJ 02/07 21:20
>aki さん、よう…
町田 02/03 00:58
人生にドーピングはな…
aki 02/01 10:07
最近のトラックバック
ザ・バンド
12/11 09:46
鉄道の魅力、立体的に
09/10 07:38
関越高速道・・・寄居…
07/24 09:18
女性目線で見たキャン…
03/05 10:18
かるキャン 画期的な…
02/26 06:14
「くるま旅くらし読本…
02/06 10:22
言葉にならない
01/13 20:10
電動ポルシェ!?その…
10/31 09:50
路地裏
08/18 09:49
「すべての男は消耗品…
08/17 20:24
ガマの油
06/15 21:53
「ガマの油 」ちょっ…
06/15 07:58
52nd
04/25 21:52
007 カジノ・ロワ…
02/02 01:18
関西(大阪・京都・神…
01/30 05:21
【ネットができる宿|…
01/05 19:52
4輪&2輪
09/22 16:41
『秘伝 大学受験の国…
09/19 03:09
LPガスボンベ
07/26 11:37
ロス
05/28 22:39
テスト
05/28 22:36
大阪キャバクラnig…
04/26 20:37
キャバクラ/ニューク…
04/09 17:32
キャバクラ嬢ご用達し…
03/14 14:32
気になるキャンピング…
03/08 07:08
キャバクラ求人-Ag…
02/23 14:41
キャバクラ情報誌クラ…
02/22 19:14
No6 LPガスの充…
02/14 14:47
大阪キャバクラブログ
01/20 21:35
御当地!プルバック・…
12/20 00:53
カップヌードル
08/09 01:54
【キャンピングカー】…
08/05 16:23
【キャンピングカー】…
08/05 16:20
村松友視の「淳之介流…
08/04 11:11
荒井千暁著『職場はな…
06/29 22:35
元ちとせ/千の夜と千…
04/15 01:55
軽自動車エッセのうる…
03/26 08:21
カーナビの渋滞回避?…
03/10 20:07
車中泊なら虫の心配い…
03/07 18:35
こんなキャンピングカ…
03/07 03:56
キャンピング&RVシ…
03/02 01:17
キャンピング&RVシ…
02/23 18:45
キャンピング&RVシ…
02/18 06:43
キャンピング&RVシ…
02/17 00:23
ZECC(ゼック) …
02/15 23:27
トイレどうする?
02/15 10:25
キャンピング&RVシ…
02/10 21:46
新古車
02/04 17:19
軽自動車キャンピング…
01/25 13:10
ブレードランナー
01/14 12:03

坂の上の雲

 司馬遼太郎の小説 『坂の上の雲』 がちょっとブレイクしている感じ。
 本屋に寄っても、けっこうこれに関係したムックや書籍が出回っている。

ドラマ坂の上の雲002

 いうまでもなく、年末にNHKのスペシャルドラマとして取り上げられることになったのがきっかけであるが、そこには、 “坂の上の雲” ( ←近代国家) をめざして 「坂道」 をけなげに上り始めた明治人に対する現代人のノスタルジーが反映しているように思える。

ドラマ坂の上の雲001

 しかし、この作品、果たしてTVドラマとして成立するのかどうか。

 もちろん大河ドラマのノウハウをさんざん蓄積したNHKのことだから、それなりに見せ場を整えたドラマにはなるだろうとは思うが、しかし、この小説は、司馬遼太郎の全作品の中でも、もっともドラマに不向きなものだと思うのだ。

 日露戦争をテーマにしたものだから、当然その戦闘描写などもたくさん出てくるわけで、映像的にも制作費的にも、原作のレベルに迫ることはできない…という予測は、まずひとつ成り立つ。

 しかし、それだけのことなら、今のCG画像の技術でなんとかならないことはないと思う。

 そうではなく、あの作品自体が、そもそも小説には収まりきらない “大きさ” を持ったものであるということが問題なのである。

 生前、司馬遼太郎は、この小説をドラマ化したいというテレビ局側の打診に対し、首を縦に振らなかったという。

 それは、日露戦争を描くための人的・資源的物量を、映画やドラマではとても揃えることができないといった意味もあったろうが、それだけでなく、作品の背後にそびえる 「小説にも収まりきらな “大きさ” 」 をどう表現するかということに関し、司馬氏が悲観的に感じたことが最大の理由だろう。

 その大きさとは何か。

 『坂の上の雲』 は、日本の歴史を描き続けてきた司馬遼太郎がはじめて手掛けた “国際小説” である。
 正岡子規や秋山兄弟といった、明治期を駆け抜けた日本人たちの青春群像を描いているように見えて、実は、世界が舞台となっている。

 特に、物語の後半。
 死闘の限りを尽くす日本とロシアの戦争を記述する部分は、よく読むと、なんと、ロシア側将兵の場に立って、ロシア軍から日本軍を見た叙述が半分を占める。

ロシア帝国紋章
▲ ロシア帝国紋章

 ロシア帝国が極東に勢力を拡張する国策を掲げたのは、ロシア一国の思惑を超えた欧米列強の政治力学の中で決まったことだった。

 だから、日露戦争をロシア側から描くということは、当然、ロシアと反目していたイギリスや、ロシアと同盟を結んでいたフランス、ドイツなどの政治家たちの計算やら思惑を描くことにもなり、ロシアの太平洋進出に神経を尖らせるアメリカの政情にも言及することになる。

 イギリスにとって、遅れてきた帝国主義国家として膨張政策を取るロシアは好ましからざる存在であるため、極東の日本がロシアを叩くのは大歓迎。
 だからイギリスは、ロシアに対して徹底的にいやらしい妨害工作の限りを尽くす。

 一方、イギリスと対抗するためにロシアと同盟を結んでいたフランスは、頼みの綱であるロシアの強大な軍事力が極東で削がれつつあることに不安を感じ、ロシアと “共倒れ” になることを避けようとして、徐々にロシアから距離を取り始める。

日露戦争風刺画
▲ 日露戦争風刺画 ロシアに日本をけしかけるイギリス

 このあたりのヨーロッパ諸国の虚々実々の駆け引きが、実は、日露戦争の最終的局面を決めた日本海海戦に大きな影響力をもたらすことになる。

 ロシア国内にも、深刻な問題があった。
 当時のロシア帝国は、世界一の軍事国家であり、皇帝の支配する強力な専制国家でもあった。

 しかしながら、その政権を支える基盤は古びて腐り始め、次第に力を蓄えてきた革命勢力に対し、ロシア宮廷はその対応にも頭を悩ませていた。
 そして日本は、ロシア政府の後方を撹乱 (かくらん) するために、このロシア内の革命勢力とも接触を試みようとする。

 『坂の上の雲』 という小説は、そういう国際社会の緊張関係の中で、日本を捉えた小説なのである。
 日本人たちを主役にした日本の小説のようでありながら、 “帝国主義の時代” を迎えた欧米の政治力学の中で日本を考察するという、気宇壮大な国際小説といった方が正しい。

戦艦「三笠」
 ▲ 戦艦 「三笠」 の幕僚たち

 この作品を書くにあたり、司馬氏が目を通した文献・資料は、おそらく日本国内のヒーローを描くときの何倍、何十倍というものであったと思われる。

 彼は、各国の政治家や軍人の残した回顧録から始まって、外交上の機密文章に至るまで、日露戦争の時代を生きた人々の残したものはすべて目を通したに違いない。

 それだけではない。
 新兵器の登場によって変化する火薬の調合に対する文献や、石炭の組成成分の分析など、自然科学分野における資料収集にもそうとうなエネルギーを使ったはずだ。

 歴史小説は、そのような文献と資料の総量で作品の精度が決まるが、作家はその資料をすべてを作品の中に使うわけではない。
 むしろ、捨てる量の方が多い。

 しかし、作品の中に引用しなかったにせよ、作家の記憶にとどまった資料の厚みが、そのまま “小説の厚み” となる。

 『坂の上の雲』 という小説は、膨大な資料を背負いながら、そこから抽出されたデータを、登場人物の 「笑い方」 の描写だけにとどめたりすることがあるのだ。
 「小説に収まりきらない “大きさ” を持つ」 という意味は、そのことをいう。

 小説だからこそ、かろうじて表現できたこのような 「世界」 を、いったいドラマとして描けるものなのかどうか。
 私は、たぶん原作とは異なるテーマを持ったドラマになると思っている。  

 それはそれで、面白ければいいのだけれど、あの小説の本当に豊かな部分というのは、たぶんドラマ化されないだろうという気がしている。

 「豊かな部分」 というのは、日本人が登場しない部分にある。

 たとえば、ロシアのバルト海から出航したバルチック艦隊が、日本海までたどり着くまでの話。
 これなど、 「本編には関係ない退屈な話だ」 と語る人もいるらしいが、私などは一番興味深く読んだエピソードだ。

 『坂の上の雲』 を単なる戦記モノとして読むならば、バルチック艦隊というのは、日本海軍のただの “かたき役” でしかない。

 しかし、彼らがどのような労苦を払って日本海までたどり着いたか…ということに着目するならば、涙なくしては読めないような話なのだ。たぶん、それだけで独立した小説ができあがるはずだ。

 現に、司馬氏はこの艦隊が出航してから海戦に至るまでの叙述で、文庫本8巻のうちのほぼ1巻分ぐらいのボリュームを割いている。それ以上かもしれない。

 満州の陸戦で苦戦を強いられていたロシア政府は、その難局を打開するために、ヨーロッパ方面の有事に備えて温存していたバルチック艦隊を、ついに極東の戦線に派遣することを決定した。

バルチック艦隊
▲ 洋上のバルチック艦隊 粗悪な石炭しか積めなかったので、吐き出す黒煙の量が多い

 これが、どのような難事であったかは、その遠大な航路がそれを物語っている。
 バルト海から大西洋に出て、アフリカ西岸を南下し、インド洋をまたぎ、そして東シナ海から日本海へと進む航路を、艦隊としての秩序を保ちながら完遂したというだけで壮挙だ。

 スエズ運河を渡れば、まだいくらかの航路の短縮は図れただろう。

 しかし、当時のスエズは日本と同盟していたイギリスが支配していたことと、石炭を満載したために喫水線が下がってしまうことを理由に、彼らはアフリカ南端の喜望峰を越えなければならなかった。

 北国で生を受けたロシア人たちは、アフリカの西岸を南下するときに、まず南国の暑さと湿気に悩まされた。
 熱気のこもる船内で寝ることは不可能になり、士官も兵卒も、上半身裸になったまま甲板にごろ寝するのだが、そのようなだらしなさが日常化することによって、士気もどんどん低下していく。

 続いて、船を動かすための石炭の確保に苦しむ。
 日本を支援するイギリスは、石炭を供給できるような自国の港をけっしてロシア艦隊に開放することはなかった。

 のみならず、フランスにプレッシャーをかけて、ロシアの同盟国であるフランス領の港においても、ロシア艦隊への石炭供給を断るように働きかけた。

 頼みの綱であったロシアの軍事力が、日本軍によって削ぎ落とされていく現状を冷静に分析したフランスは、打算的な政治力を発揮し、イギリスの機嫌を損ねないように、ロシアに冷たく当たるようになる。

 ロシア艦隊が寄港できる港は、フランス領内であっても環境の劣悪な港しかなく、石炭を仕入れる港はさらに限定されていく。

 だから、石炭が供給される港に入ったときは、あらんかぎりの石炭を積み込むことになり、そのため船員たちの居住スペースは狭められ、船の重量も重くなり、航行速度はさらに減少する。

 しかも、石炭を詰め込むという重労働が、長旅に疲れた船員たちの疲労度をさらに増すことになる。

喜望峰
▲ 喜望峰

 彼らは、青息吐息でようやく喜望峰を回るのだが、そこで待っていたのは、大航海時代の船乗りたちを悩ませた、想像を絶するような大暴風。

 船よりも高い大波が艦尾を襲い、その次には、船そのものが波の頂点に押し上げられ、眼下に、今にも波に呑み込まれそうな僚船の姿を見下ろすことになる。
 船員たちは、生きた心地がしなかったろう。

 ようやくたどり着いたマダガスカル島で、彼らは、旅順港と旅順の要塞が、日本軍の手に落ちたという悲報を受け取る。
 バルチック艦隊の東征の目的は、旅順港に寄港している旅順艦隊と合流して、圧倒的な海軍力で日本軍にプレッシャーをかけることにあったから、航海の半ばで、その目的も潰える。

 しかも、彼らにとって難攻不落に思えた旅順要塞が陥落したことで、日本の軍事力への過大評価が、幻影となって彼らの神経を蝕み始める。

 以降、水平線の彼方に昇る煙を見ただけで、彼らは 「日本の巡洋艦隊の出撃か?」 と恐れおののき、それが無用の緊張となって、兵士たちの睡眠を妨げるようになる。

バルチック艦隊戦艦
▲ バルチック艦隊の戦艦

 艦隊を一つしか持たない日本海軍が、わざわざインド洋まで兵力を割くなどということはありえないのだが、疑心暗鬼に駆られたロシア海軍は、幻の日本海軍に悩まされながら、航海を続けなければならなくなる。

 発狂して海に飛び込む兵士も続出し、軍としての統制力もどんどん弛緩していく。

 このような難行苦行の航海を続けたバルチック艦隊を待っていたのが、あの日本海海戦の悲惨な結末なのだから、これはもう涙なくしては読めない話だ。

 『坂の上の雲』 という小説は、そのような “敵国” ロシアの兵士たちが立たされた苦境をも公平な視線で描ききった小説である。

 この物語を読むと、日露戦争の勝利が、けっして日本軍の “優秀さ” によってもたらされたものでないことが分かる。

 あの戦争は、欧米列強の政治的な思惑の中で繰り広げられた戦いで、戦況を支配するのは、諸外国の駆け引きをどう利用するかというその “読み” の力にかかっていた。

 強いていえば、当時の日本政府は、欧米列強の政治的な思惑を “読む” 力があったということでしかないのかもしれない。

 もう何度も読んだ小説である。
 何度読んでも飽きないものが、ここにはある。
 だから、寝る前には読まないようにしている。
 あまりにも面白いために、眠くならないからだ。
 気づいてみると、白々と夜が明けていたりすることもあった。

 私にとっては、 “健康を害する” 小説のひとつだ。


音楽&映画&本 | 投稿者 町田編集長 01:15 | コメント(2)| トラックバック(0)
トラックバック
こちらの記事へのトラックバックは下のURLをコピーして行ってください。
コメント
健康を害する小説って、これ最高の賞賛であり趣味としては一流ですね。
少なくとも検索エンジンに振り回されている私よりも、健康的かつ建設的。
「坂の上の雲」は、確か全8巻でしたね? 司馬遼太郎って考え方のスケールがなにしろでかいので、私はむしろ対局の視点で迫る藤沢周平に親近感があります。
どちらもすごい作家ですが、いまの時代を考えると、もうこういう方たちは出てこないような気がします。
時代背景がチマチマしているせいでしょか?
町田さんはどう思われます?
投稿者 磯部 2009/11/20 18:05
>磯部さん、ようこそ。
時代小説・歴史小説の分野においては、司馬遼太郎さんと藤沢修平さんは双璧と讃えられる人たちですね。どちらも 「日本の近代」 という問題意識を強く持たれている作家たちだと思います。

その中で、司馬さんは、近代の光の当たる部分を、肯定的に力強く描き、藤沢さんは、近代の影の部分で、壊れそうになっていく人のつながりとか、優しさに対する眼差しを忘れなかった人ということになるのでしょうか。

私は司馬遼太郎のファンですけど、今の日本は、もう司馬さん的な問題意識では捉えられないような時代に入ってきているな…と感じています。

だから逆に、司馬さんが生きていたら、今の日本をどう視るのだろう? …といつも考えています。

司馬さんが掲げてきた 「個性」 「自由」 「独創」 などという近代の理念そのものが問われるような今の時代を視て、彼の脳裏に去来する思いとは何か。興味あるところです。

司馬さんのスケールの大きさというのは、やはり、彼には特殊な戦争体験があるからでしょうね。
劣悪な日本の戦車を操らなければならない一兵士の時代を経験したということが、彼の文学の原点にあるように思います。
 
投稿者 町田 2009/11/21 00:59
名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:
<<  2009年 11月  >>
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
ホビダス[趣味の総合サイト]