町田の独り言 キャンピングカーのガイド本を編集する町田が語るよもやま話

最近の記事
新ブログのご案内
04/28 17:06
久々の更新です
04/27 19:06
3・11以降
04/12 09:56
人類に残された資源
04/05 10:18
ザ・ウォーカー
04/03 00:53
島尾敏雄・贋学生
04/02 03:45
日本人は変わるか
03/31 01:36
渚にて
03/26 02:03
テレビは終わった
03/23 00:23
明かりの果ての闇
03/21 08:05
東電を怒る父さん
03/18 17:00
深い言葉
03/16 09:53
何かが変わった
03/15 00:06
災害時のキャンカー
03/13 16:18
大地震
03/12 13:16
ジュリアンオピー
03/11 02:35
親孝行ビジネス
03/08 20:02
OMCの北斗
03/07 00:18
アレクサンドリア
03/05 15:49
AtoZのバンビ
03/03 20:36
かるキャン
03/02 18:39
ハーレーの魔力
02/28 21:59
パークウェイ
02/23 18:59
CG880
02/20 13:11
忙しいぞぉ!
02/18 22:01
都市型キャンプ場
02/09 23:55
ファビュラス日本
02/07 19:32
老人の孤独
02/06 20:36
「都会」 の匂い
02/05 01:53
エジプトでは何が?
02/04 15:44
同人雑誌仲間
02/03 00:20
自己啓発ビジネス
02/01 02:10
ノスタルジー
01/30 05:23
夫婦の会話の危機
01/28 23:58
その一服は必要か
01/24 23:40
荒野の炎
01/23 19:43
山口冨士夫の精神
01/22 03:11
焚き火で育つ感性
01/20 19:55
キャンカー1人旅
01/19 01:37
車中泊の社会実験
01/17 15:40
個人の時代
01/16 11:50
細くなるネクタイ
01/13 20:32
映画アバター
01/12 20:07
若者の考える商売
01/11 14:36
パリッシュの絵画
01/09 04:00
300万アクセス
01/08 12:15
不思議な青空
01/07 21:04
TV・新聞の凋落
01/06 19:44
中国ルネッサンス
01/05 20:19
ベルイマン・沈黙
01/04 21:33
出来事いろいろ
01/03 02:43
謹賀新年
01/01 00:48
オールドマン
12/30 18:53
好奇心の力
12/29 14:28
「孤独死」の原因
12/27 20:17
廃墟のある島
12/26 02:48
遠いクリスマス
12/25 01:06
ロビン・フッド
12/24 03:48
地獄の電車
12/23 11:35
バッグス・バニー
12/22 02:59
正義の話をしよう
12/19 23:46
空気人形
12/18 13:10
ジジイ同士の酒
12/17 04:32
世界ゲーム革命
12/14 02:47
ハイマー懇親会
12/13 16:11
ガールズキャンプ
12/12 23:48
イタリアをめざせ
12/10 15:15
外来種の驚異 Ⅱ
12/09 00:41
外来種の脅威とは
12/08 20:46
Kポップの台頭
12/07 01:19
うつろひ
12/06 01:21
海老蔵さんの悲劇
12/05 01:07
追悼ジョンレノン
12/03 04:52
「個性化」のワナ
11/30 04:13
戦うブログ
11/29 04:09
子供の自然体験
11/28 04:50
RV好きの芸能人
11/26 01:01
胃の中にヘビ
11/25 16:12
消えた秋
11/22 14:14
歌謡ブルースの謎
11/20 04:29
おひとりさま時代
11/19 00:33
3行で総てを語る
11/18 00:15
塔の形而上学
11/17 02:04
裕次郎スナック
11/15 23:10
自然は子供を養う
11/12 20:28
おれ、ねこ
11/10 01:19
NHK車中泊報道
11/09 17:17
お台場パラダイス
11/08 20:34
伝える力
11/05 00:12
お台場ショー迫る
11/04 02:02
昔は戻らない
11/03 02:11
電子タバコ
11/02 00:04
一般国道の不思議
10/29 18:25
酒場放浪記
10/26 22:25
名古屋RVショー
10/25 19:25
ハイマーカー322
10/21 12:31
猫会議
10/21 00:05
飽きるという知恵
10/20 01:28
ロボット兵器
10/19 02:52
最近のコメント
突然の書き込み失礼…
最近の流行 05/12 00:01
はじめまして~文…
すまそ 05/08 16:44
>TJさん、ようこそ…
町田 04/28 13:47
>TJさん、ようこそ…
町田 04/28 12:06
便利+楽=快適、これ…
TJ 04/28 10:05
町田さん久しぶり…
motor-home 04/28 06:07
やはり、時代の変化・…
TJ 04/21 02:27
私はこのところ「自然…
磯部 04/12 14:52
>aki さん、よう…
町田 04/12 10:18
何度も投稿ボタンを押…
aki 04/08 10:57
>aki さん、よう…
町田 04/08 09:13
今のVWに乗り換える…
aki 04/07 15:19
>雷さん、ようこそ。…
町田 04/06 15:20
>ミペット@倉庫の肥…
町田 04/06 13:46
>JoeCoolさん…
町田 04/06 11:06
キャンピングカーは、…
雷 04/05 21:37
率直に言うと、研究所…
ミペット@倉庫の肥やし保存中 04/05 20:10
町田さま度々失礼…
JoeCool (in Peanuts) 04/05 12:56
>aki さん、よう…
町田 04/05 11:14
今のこの国の空気、ど…
aki 04/04 10:32
>solocarav…
町田 04/01 11:08
>JoeCool さ…
町田 04/01 10:32
>ムーンライトさん、…
町田 04/01 09:56
>赤い屋根さん、よう…
町田 04/01 08:53
「心に届く言葉」・・…
solocaravan 03/31 23:23
今回のように社会全体…
雷 03/31 23:05
米国では9.11の前…
Jo 03/31 11:21
米国では9.11の前…
JoeCool 03/31 11:19
米国では9.11の前…
JoeCool 03/31 11:05
そうだ、普遍性だ。…
ムーンライト 03/31 09:31
町田さんおはようござ…
赤い屋根 03/31 07:50
>おおきに! さん、…
町田 03/30 15:47
>雷さん、ようこそ。…
町田 03/30 14:57
>雷さん、ようこそ。…
町田 03/30 14:33
町田編集長さん こん…
おおきに! 03/29 08:29
今回の震災では、各局…
雷 03/28 21:22
本作品のリメイクであ…
雷 03/28 21:09
>おおきに! さん、…
町田 03/23 19:54
町田編集長さん こん…
おおきに! 03/23 07:48
>s-_-s さん…
町田 03/23 01:19
>ムーンライトさん、…
町田 03/23 00:46
人間は電気によって闇…
s-_-s 03/22 22:55
追記です。先ほど…
ムーンライト 03/22 14:24
数日前、市内の大型ス…
ムーンライト 03/22 12:24
>ブタイチさん、よう…
町田 03/22 03:09
お久しぶりです。町田…
ブタイチ 03/21 22:54
>鈴木様、ようこそ。…
町田 03/19 23:12
>ムーンライトさん、…
町田 03/19 22:35
今日、店からはじめて…
デルタリンク宮城 03/19 19:40
この「東電を怒る父さ…
ムーンライト 03/19 11:45
>ゆんたさん、ようこ…
町田 03/19 09:11
言葉に出して誰かに代…
ゆんた 03/19 07:50
>鈴木 様本当に…
町田 03/18 00:00
町田さん、ご心配あり…
デルタリンク宮城 03/17 20:52
>鈴木様コメント…
町田 03/17 16:04
>TOMYさん、よう…
町田 03/17 14:39
町田さんこんにちは。…
デルタリンク宮城 鈴木 03/17 11:32
こんばんは、町田さん…
TOMY 03/16 20:23
世界中に5億人を超え…
フェイスブック 03/15 11:30
>s-_-s さん、…
町田 03/14 00:28
町田さんご無事で何よ…
s-_-s 03/13 22:55
>ムーンライトさん、…
町田 03/12 17:43
町田さん。ご無事でし…
ムーンライト 03/12 16:25
>YAMAさん、よう…
町田 03/12 13:33
シンプルな風景画、い…
Yama 03/11 12:14
>渡部竜生さん、よう…
町田 03/10 02:33
>キャンピングカーと…
渡部竜生 03/09 14:02
>スパンキーさん、よ…
町田 03/08 19:22
いいですね、北斗。久…
スパンキー 03/07 13:52
>マッキー旅人さん、…
町田 03/03 22:45
町田さん、今日は。…
マッキー旅人 03/03 16:23
>ムーンライトさん、…
町田 02/28 22:42
町田さん。アマゾ…
ムーンライト 02/24 10:29
>渡部竜生さん、よう…
町田 02/19 05:42
>小平の福ちゃん様、…
町田 02/19 05:31
>matsumoto…
町田 02/19 05:18
>solocarav…
町田 02/19 05:03
>el さん、ようこ…
町田 02/19 04:50
>旭川の自称美女さん…
町田 02/19 04:14
幕張ではお世話になり…
渡部竜生 02/19 00:58
ご無沙汰しております…
小平の福ちゃん 02/19 00:03
お久しぶりです。ma…
matsumoto 02/14 07:35
ぜひ実現させたいアイ…
solocaravan 02/11 20:59
だいぶ経ってからのコ…
旭川の自称美女 02/11 11:51
町田さん、こんにちは…
el (エル) 02/11 11:11
>TOMY さん、よ…
町田 02/10 00:21
こんばんは、町田さん…
TOMY 02/09 21:45
>ムーンライトさん、…
町田 02/09 15:38
>ゆんた さん、よう…
町田 02/09 14:48
>Joe Cool …
町田 02/09 13:46
>磯部さん、ようこそ…
町田 02/09 11:54
「ゆんたさん」の文章…
ムーンライト 02/09 11:46
>TJさん、ようこそ…
町田 02/09 11:22
色々なことを考えまし…
ゆんた 02/09 06:36
同居していて5年前に…
JoeCool 02/08 16:01
最初に、このブログを…
磯部 02/08 05:14
写真で見る限り「FA…
TJ 02/07 21:20
>aki さん、よう…
町田 02/03 00:58
人生にドーピングはな…
aki 02/01 10:07
最近のトラックバック
ザ・バンド
12/11 09:46
鉄道の魅力、立体的に
09/10 07:38
関越高速道・・・寄居…
07/24 09:18
女性目線で見たキャン…
03/05 10:18
かるキャン 画期的な…
02/26 06:14
「くるま旅くらし読本…
02/06 10:22
言葉にならない
01/13 20:10
電動ポルシェ!?その…
10/31 09:50
路地裏
08/18 09:49
「すべての男は消耗品…
08/17 20:24
ガマの油
06/15 21:53
「ガマの油 」ちょっ…
06/15 07:58
52nd
04/25 21:52
007 カジノ・ロワ…
02/02 01:18
関西(大阪・京都・神…
01/30 05:21
【ネットができる宿|…
01/05 19:52
4輪&2輪
09/22 16:41
『秘伝 大学受験の国…
09/19 03:09
LPガスボンベ
07/26 11:37
ロス
05/28 22:39
テスト
05/28 22:36
大阪キャバクラnig…
04/26 20:37
キャバクラ/ニューク…
04/09 17:32
キャバクラ嬢ご用達し…
03/14 14:32
気になるキャンピング…
03/08 07:08
キャバクラ求人-Ag…
02/23 14:41
キャバクラ情報誌クラ…
02/22 19:14
No6 LPガスの充…
02/14 14:47
大阪キャバクラブログ
01/20 21:35
御当地!プルバック・…
12/20 00:53
カップヌードル
08/09 01:54
【キャンピングカー】…
08/05 16:23
【キャンピングカー】…
08/05 16:20
村松友視の「淳之介流…
08/04 11:11
荒井千暁著『職場はな…
06/29 22:35
元ちとせ/千の夜と千…
04/15 01:55
軽自動車エッセのうる…
03/26 08:21
カーナビの渋滞回避?…
03/10 20:07
車中泊なら虫の心配い…
03/07 18:35
こんなキャンピングカ…
03/07 03:56
キャンピング&RVシ…
03/02 01:17
キャンピング&RVシ…
02/23 18:45
キャンピング&RVシ…
02/18 06:43
キャンピング&RVシ…
02/17 00:23
ZECC(ゼック) …
02/15 23:27
トイレどうする?
02/15 10:25
キャンピング&RVシ…
02/10 21:46
新古車
02/04 17:19
軽自動車キャンピング…
01/25 13:10
ブレードランナー
01/14 12:03

庄野潤三「静物」

 庄野潤三の短編集 『プールサイド小景・静物』 (新潮文庫) を買った。
 通勤電車の中で気楽に読める手頃なサイズの小説集が欲しかったからだ。

庄野「静物」表紙

 家に戻って何気なく書棚を見たら、同じ本が、ちょっとホコリを被ったまま天井近くの棚にひっそりと刺さっていた。
 買ったことを忘れていたのだ。
 悔しいけれど、私にとってはよくあることだ。

 でも、そこでがっかりせずに、はじめてこの本を買ったつもりで、順を追ってページを繰ってみた。
 やっぱりそのほとんどを忘れている。
 …というか、もしかしたら本を買ったはいいが、読んでもいなかったのかもしれない。

 収録されていた七つの短編にはそれぞれ独特の空気があって、どれも不思議な気分にさせられた。

 どの作品も、昭和25年から35年までの間に書かれたものである。
 最初に発表された 『舞踏』 からすでに60年経つことになる。
 しかし、読んでみると古びていない。

 特に、『舞踏』 と 『プールサイド小景』 などは、今のテレビ局が単発ドラマの原作として使っても、十分に通用するような話だ。

 テーマは 「不倫」 。
 平和に暮らしている幸せな家族に、そっと忍び寄る夫婦の危機。
 小説全体を “のんびり感” が覆っているだけに、そこに入った亀裂の深さが逆に浮き彫りになり、作品全体が不思議な透明感を持った悲しみに包まれている。

 しかし、この手の作品なら、昔から名手はたくさんいた。

 むしろ、興味深いのは、『相客』 、 『五人の男』 、 『蟹』 、『静物』 といった、家族の肖像をさりげなく描いた “おとなしい” 作品群の方である。

 その中でも一番奇妙な味わいを持つのは、本の表題の一つとして掲げられている 『静物』 である。
 この作品は、村上春樹が 『若い読者のための短編小説案内』 でも採り上げたことがあるので、それに触発されて、にわかに最近の若者にも読まれるようになったと聞く。
 読んでみると、確かに、ある意味で村上春樹好みの作品という感じもする。

 主な登場人物は、父親、母親、そして女の子と2人の男の子である。
 その家族の中で繰り広げられる日常生活の一コマ一コマが、何の脈絡もないまま並列につながっているだけの作品なのだ。

 たとえば最初の章は、子供たちが、父親にせがんで釣り堀に連れていってもらい、意気込んで釣糸を垂れるのだが、何も釣れず、最後に父親が小さな金魚を一匹だけ釣って家に帰るところで、プツッと終わる。
 事件が起こるわけでもなく、しゃれたオチが用意されているわけでもない。

 他の話も大同小異だ。
 5人家族の平和なやり取りを淡々と描いたスケッチが続く。

 なのに、この作品全体から、うっすらと不思議な感覚が立ち昇ってくる。
 常に、文字として書き込まれていない何かがここには居座っている。

 その正体のひとつは、簡単に探し出せる。
 夫と妻との間にときおり忍び込んで来る 「すきま風」 だ。

 ある晩、父親はそばで寝ている妻のことを、ふとこう考える。

 「おれの横にこちらを向いて眠っている女……これが自分と結婚した女だ。15年間、いつもこの女と寝ているのだな。同じ寝床で、毎晩」

 結婚したどの夫にも必ず訪れる、ごくありきたりの感慨かもしれない。
 しかし、これは、読者にはじめて伝えられる父親の 「内面」 なのである。

 家族を平等に愛し、のんびりと、平和に暮らしている父親は、実は心の奥底では、きわめて冷静に、妻との間の距離を測っている。
 この夫は、15年経っても、一緒に暮らす妻を、「妻」 としてではなく、あまたいる 「女」 の一人として遠くから眺める視線を放棄してはいないのだ。

 夫のクールな意識が突然頭をもたげてくるこのシーンは、水面にさざ波が立つくらいの微かな不安を、作品の中に撒き散らす。

 またある日、夫は家の中で昼寝しているときに、「女のすすり泣き」 の声を耳にしたと回想するくだりがある。
 妙だなと思って、台所を覗いてみると、妻はほうれん草を洗っていた。
 「何か音がしなかったか?」
 と夫が妻に尋ねると、
 「いいえ、何か聞こえました?」
 と妻は晴れやかな顔をこちらに向けた、というのである。

 結局、夫には 「すすり泣き」 の犯人がいまだに分からない。
 場面はそこで変わり、話は子供たちのドーナツ作りに移っていく。

 しかし、読者には分かってしまう。
 たぶん、この夫は、かつて妻をすすり泣かせるようなことをしてしまったのだ。
 そして、もしかしたら、一見仲むつまじそうに見える夫婦の間には、いまだに深いクレバスが口を開けていて、2人ともそのクレバスから目を背けているのかもしれない。
 読者にそう思わせる何かが、ここでは暗示されている。

 でもそれが何であるか、作者は語らない。

 日常生活を脅かす陽射しの陰りは、ほんの一瞬で姿を消し、ほとんどの場合、ちょっぴり退屈な日常性が何ごともなかったかのように復活する。

 多くの人が、この 『静物』 にときおり顔を出す 「不安の徴候」 に注目した。
 そして、その 「不安の徴候」 こそが、この牧歌的で微温的な小説をピリッと引き締めるタガになっていると指摘した。


 しかし、『静物』 という小説は、夫と妻の関係が明らかになれば、作品全体を貫く奇妙な味わいの秘密が解けるのかというと、そうではない。
 夫の心理状態がどうであれ、妻が求めるものが何であれ、それとは関係ないところで、不思議なものが迫り出してくる。

 その不思議なものを探る前に、以下の場面を見てみたい。

 ある日父親は、男の子に、イカダ流しをしていた “川の先生” の話をする。
 「川の先生は、川のことにかけては人とは比べものにならない名人で、川に魚が何匹いて、どっちの方向を向いて、何をしているということまできっちり言い当てる。
 この人と一緒に釣りをしていて、『あとひとつ』 というと、そこにはあと一匹しか魚が水の中にいないということなんだ」
 それを聞いて、男の子は 「すごい」 と言う。

 その話のついでに、父親は釣りをしていると必ず現れてくるキツネの話をする。
 キツネはカゴに入った釣った魚を狙っていて、石を投げても、ヒョコヒョコと避けるだけで立ち去らない。
 そして、油断をしていると、カゴを加えてすーっと走り去る。
 聞いている男の子は 「あーあ」 とがっかりした声を出す。

 「学校の花壇を掘っていたら、土の中からおけらが一匹出てきたの」
 と、女の子が父親に話す。
 「そのおけらはね、誰それさんの脳みそ、どーのくらい? って聞くと、びっくりして前足を広げるの」
 そういって、女の子は両方の手でその幅を示す。
 「そのおけらの前足の幅でね、みんなの脳みその大きさが分かるの」

 男の子がボール箱の中に入れておいた蓑虫 (みのむし) がある日いなくなる。
 子供は、蓑虫を庭の木からつまみあげ、裸にして、木の葉っぱや紙切れと一緒に箱の中に入れ、巣をこしらえる様子を観察するつもりでいたのだ。

 その蓑虫がどこかに姿を消す。
 しばらくすると、蓑虫はいつのまにか子供の勉強部屋に巣を作って収まっている。
 父親は、戸外に巣を作るはずの蓑虫が家の中に巣を作っている様子を見て、不思議な気持ちになる。

 これらの、父親と子供が語り合う世界はいったい何なのだろう。
 
 テーマはみな 「自然」 である。
 この小説では、冒頭の金魚釣りから始まり、必ず同じ道をたどろうとするイノシシの話、あくまでも前へ前へと進むアユの話など、父と子供たちの会話に必ず 「自然」 が登場する。

 テレビゲームも携帯電話もない昭和35年。
 子供たちの遊びのフィールドがアウトドアだったことは分かる。
 しかし、父親と子供たちの対話の中で、これほど自然を相手にした話が繰り返されるとなると、そこに庄野潤三がなにがしかの意図を込めたことを感じないわけにはいかなくなる。

 作者はどういうつもりで、繰り返し繰り返し、「自然」 というテーマを父親と子供たちに語らせたのだろうか。

 たぶん、庄野潤三は自然の持つ 「超越性」 を、この作品の中に導入したかったのだ。
 人間が、可能な限りの人智を奮っても制御できないもの。
 人間のつくり出す秩序を軽々と超えて、人間などには関わることのできない大きな秩序を形成しているもの。
 そのような 「超越的な存在」 を、庄野潤三は 「自然」 というシステムに仮託して、子供と父親との会話の中で示唆しようとしたのだ。

 実際の話題として登場する 「自然」 は、どれもたわいない。
 父親が子供に語る自然は、現代人がノスタルジックにいつくしむ 「失われた自然」 でもなければ、文明に猛威を振るう 「怒れる自然」 でもない。

 にもかかわらず、「自然」 は不思議な世界を人間にかいま見せる。
 おけらは、子供の 「誰それさんの脳みそ、どのくらい?」 という問に素直に反応して前足を広げ、蓑虫は勉強部屋の片隅に巣を作る。

 それらに触れることによって、主人公の父親は、自分たちの力を超えた何者かの存在を無意識のうちに感じとる。

 この 『静物』 という作品は、舌を巻くほど見事な描写力を誇っている小説である。
 特に、子供たちが見せる無邪気な会話や仕草。
 それを、これほどまで克明に写し取った作者の技量は、並大抵のものではない。

 しかし、そのようにして獲得されたリアリティは、逆に 「リアリズムでは獲得できない世界」 があることも、地面に落ちた影のように映し出してしまう。
 それが、「消えた蓑虫が、ある日こっそりと勉強部屋に移動して作ってしまった巣」 なのだ。

 この 『静物』 という小説に備わる “奇妙な味わい” は、日常生活の中にぬっと顔をさらす異形のパワーとして 「自然」 を捉えたところから生まれている。

 村上春樹は 『若い読者のための短編小説案内』 の中で、ここに登場する子供たちを、作者の 「イノセンス (無垢) 」 への憧憬が表現されたものとして捉える視点を披露していたが、そのイノセンスこそ、子供たちが無意識に備えている 「自然」 への親和性と解釈することもできる。

 つまり、自然に対して、その懐 (ふところ) に無心に飛び込んでいける子供というのは、この世に屹立している 「超越的なるもの」 の存在を大人に知らしてくれる 「使者」 なのだ。

 庄野潤三がこれを書いた昭和35年という時代は、まだ都会生活を送る人々の間ですらも、自然をテーマに語るときの素材がこれほど溢れていたのだ。
 しかし、今ここで描かれたような自然と接することができるのは、人里離れた山奥にでも行かなければ無理になった。

 だからこそ、『静物』 という作品が、不思議な光芒を放つように感じられるのは、逆に今の時代かもしれない。


音楽&映画&本 | 投稿者 町田編集長 23:25 | コメント(0)| トラックバック(0)
トラックバック
こちらの記事へのトラックバックは下のURLをコピーして行ってください。
コメント
この記事へのコメントはありません。
名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:
<<  2009年 7月  >>
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
ホビダス[趣味の総合サイト]