2008年06月23日
沈む夕陽を追って
《 モーターホームでアメリカを走る 12 》
地平線のかなたまでフラットな直線路が伸びていくアメリカ南西部の直線路。
そういう道を、陽の沈む時間帯に走っていると、日本では経験しなかったような問題に直面する。
夕陽の落ちゆく先が、たまたま進行方向だった場合、その日差しを遮ってくれるものが何もないのだ。
日本なら山あり丘ありで、それらが、頼みもしないのに夕陽を遮ってくれる。さらに、日本の道路はカーブが多いので、いつまでも夕陽が進行方向に居座ったりすることがない。
が、アメリカで、日暮れ時に西に向かうことは、夕陽を追っての旅となる。
真正面に陣取った太陽は、
「ここの主役はオレ様だぁ」
とばかりに、果てしない直線路を 「黄金色の花道」 に染め上げる。
サンバイザーは役に立たない。
地面すれすれに走ってくる光りは、サンバイザーの下を軽々と突破し、狙いすましたかのようにドライバーの目を直撃してくる。
サングラスがない場合は、日が完全に沈み込むまで、どこかにクルマを止めて待機するしかない。

▲ こういう直線路の場合は、進む道の正面に夕陽が居座ったりすると、もう逃げ場がない。
ペイジの町を出て、ザイオン国立公園に向かう途中の89号線で、この 「夕陽攻撃」 を受けた。
「夕陽を追いかけて走る」 なんて、
なんとロマンチックなんだろう!
…なんていう考えが、なんと甘い夢想だったか。この地に来てまざまざと思い知る。
クルマを止めるような路肩も駐車場も見つからなかったので、ほとんど人間のランニングスピードくらいの速度を落とす。
それでも、追い抜いていくクルマがない。
みんな同じような状況に追い込まれていたのかもしれない。
沈むまぎわまでさんざん暴れた夕陽がようやく沈みきった頃、ザイオンの東からの入口となるカナブの町を過ぎた。
89号線が9号線へ分かれる道の手前で空き地を見つけ、地図を確認するために小休止する。
ふと見ると、空き地の脇に 「RVパーク」 の看板。
え、どこに?
と見回すと、止まっている場所が、なんとRVパークのまっただ中だった。
ゲートも柵もない。
管理棟のようなものも見えない。
しかし、注意深く観察すると、確かに、砂っぽい地面の上に何本かの配管が突き刺さっている。
どうやらそれが電源であったり、水道管であったりするらしい。

▲ 注意深く見ないと分からないくらいささやかに、電源とダンプと水道が準備された寂しいRVパーク。
管理者はどこに?
空き地の向かいに、ガスステーションと雑貨屋を兼ねたような店があり、どうもそれっぽい。
その店の方も、あまり繁盛している気配がない。
う~む…。
一口に 「RVパーク」 といっても、実にさまざまな種類があることを知る。
9号線を登ると森が始まった。
と同時に、道が右に左にうねるような弧を描き始めた。
「あ、日本だ」
と思った。
単調な直線路ばかり走っていると、ワインディングロードを見るだけで、もう日本に思えてしまう。
周囲の山に木が生えているという景観も、どこか日本的だ。
ザイオン国立公園のことを、
「緑の豊かな自然環境が特長で、乾いた大地を舞台とした観光地の多いグランドサークルの中では日本的だ」
と紹介したガイドブックもあった。
確かに、生物の匂いが希薄な、乾いた大地ばかり見てくると、この緑を擁した山々が生命を持っているような感じに思えてくる。
が、そういう風景は、最後の残照が空に残るような時間帯に見ると、かすかに怖い。
風景が、昼の素顔をかなぐり捨てて、夜の顔に変わる瞬間だからだ。
モニュメントバレーのような乾ききった光景は、神秘的に見えても、「何かが潜んでいる」 という実感とは遠いが、緑の多い湿った風景というのは、自然のなかに 「もののけ」 が潜んでいるという想念を呼び起こす。
太陽が完全に山の稜線に消えると、なんだか、日本の山道で迷ったときのような心細さが襲ってきた。
ザイオンに入る東ゲートにたどり着いたときは、夕闇が辺りを包む直前だった。 これより先に進むには、このゲートで入場料を払わなければならない。
しかし、料金所にすでに人影はない。
どうしたものか。
「そのまま行きましょう」
という小林さんの判断で、そのまま進入することにした。
ここを通過しない限り、今晩予定していたRVパークにたどり着くことはできないのだ。
道が少しずつ狭くなってきた。
しかも、コーナーがどんどんきつくなる。対向車線にはみ出さないと、カーブを曲がりきれない。
はじめて、31フィートというモーターホームの巨体を持て余す。
やがて、有名なトンネルに突き当たった。
この観光地がようやく整備された頃に掘られたトンネルで、大型観光バスやモーターホームの通行が想定されていない時代のものだという。
観光客が多い昼間は、レンジャーの指示に従って 交互交通が行われるという話もある。
トンネルを前にして、またしても突っ込むかどうかためらいが生じた。
トンネル前の空き地に止めてあった乗用車のオーナーに声をかけた。
「Can I go?」
乗用車に乗っていた若い夫婦が、自分たちのクルマから出てきて、しげしげとモーターホームを見上げる。
「分からないね。自分たちは、その奥まで入っていないから」
と、彼らはいう。
モーターホームをじっくり眺め回した旦那さんは、
「道の真ん中を通っていけば大丈夫じゃないかな」 という。
しかし、奥さんの方は、
「ヘイト (高さ) が問題だ」 という。
「天井にルーフが当たる」 と、心配げな表情だ。
ここを通過しているモーターホームがいっぱいあることを知っているので、慎重に走れば問題ないことは分かっているのだが、奥さんの言葉に少し不安になる。
迷ったが、旦那さんのいうことを信じて、トンネルに突入する。
確かに、天井が頭上にのしかかってくるような感じがする。
しかし、対向車の来ないタイミングを見計らって、道の真ん中を走ればまったく問題はない。
のろのろ走っている私たちのクルマを追いかける後続車も、事情を考慮してくれるのか、せっついてくる気配がない。
無事、トンネルを抜けたと思った瞬間、その後続車が突然サイレンを鳴らした。
レンジャーパトロールに捕まったのだ。
路肩に止めた運転席から、西部劇などでおなじみのハットをかぶった若い警官が近づいてくるのが見えた。
「○×△□……○×△□……」
なまりがあるのか、何を言っているのかさっぱり分からない。
「パードン、パードン…」
を聞き返しているうちに、苦笑いしたレンジャーの青年は、今度は端正な英語で、一語一語区切りながら話してくれた。
それによると、
「入場ゲートで料金を払っていないだろう。違反である。お前たちはもう一度ここに戻ってくるのか?」
と言っているようなのだ。
「いや戻らない。明朝にはラスベガスに行ってこのレンタルモーターホームを返さなければいけない」
私に代わって、小林さんがそう説明してくれた。
ペイジの修理工場で時間を食ってしまった私たちには、ザイオンをゆっくり見物できる時間はなかったのだ。
レンジャーの青年はそれを聞いて、またも苦笑い。
このエリアに留まって明日も観光するのなら、明朝ゲートがオープンしたときに入場料を払え、とでも言うつもりだったのだろう。
「OK、Go」
ただし、
「モーターホームはこの道では大き過ぎる。十分注意して走るように」
そう優しく忠告もしてくれた。
ウィンクするように、片目をつぶって苦笑いしたレンジャー氏の表情が印象的だった。
せっかくのザイオンを素通りかい?
そりゃ、さびしいね。
そう言っているようにも見えた。
地平線のかなたまでフラットな直線路が伸びていくアメリカ南西部の直線路。
そういう道を、陽の沈む時間帯に走っていると、日本では経験しなかったような問題に直面する。
夕陽の落ちゆく先が、たまたま進行方向だった場合、その日差しを遮ってくれるものが何もないのだ。
日本なら山あり丘ありで、それらが、頼みもしないのに夕陽を遮ってくれる。さらに、日本の道路はカーブが多いので、いつまでも夕陽が進行方向に居座ったりすることがない。
が、アメリカで、日暮れ時に西に向かうことは、夕陽を追っての旅となる。
真正面に陣取った太陽は、
「ここの主役はオレ様だぁ」
とばかりに、果てしない直線路を 「黄金色の花道」 に染め上げる。
サンバイザーは役に立たない。
地面すれすれに走ってくる光りは、サンバイザーの下を軽々と突破し、狙いすましたかのようにドライバーの目を直撃してくる。
サングラスがない場合は、日が完全に沈み込むまで、どこかにクルマを止めて待機するしかない。
▲ こういう直線路の場合は、進む道の正面に夕陽が居座ったりすると、もう逃げ場がない。
ペイジの町を出て、ザイオン国立公園に向かう途中の89号線で、この 「夕陽攻撃」 を受けた。
「夕陽を追いかけて走る」 なんて、
なんとロマンチックなんだろう!
…なんていう考えが、なんと甘い夢想だったか。この地に来てまざまざと思い知る。
クルマを止めるような路肩も駐車場も見つからなかったので、ほとんど人間のランニングスピードくらいの速度を落とす。
それでも、追い抜いていくクルマがない。
みんな同じような状況に追い込まれていたのかもしれない。
沈むまぎわまでさんざん暴れた夕陽がようやく沈みきった頃、ザイオンの東からの入口となるカナブの町を過ぎた。
89号線が9号線へ分かれる道の手前で空き地を見つけ、地図を確認するために小休止する。
ふと見ると、空き地の脇に 「RVパーク」 の看板。
え、どこに?
と見回すと、止まっている場所が、なんとRVパークのまっただ中だった。
ゲートも柵もない。
管理棟のようなものも見えない。
しかし、注意深く観察すると、確かに、砂っぽい地面の上に何本かの配管が突き刺さっている。
どうやらそれが電源であったり、水道管であったりするらしい。
▲ 注意深く見ないと分からないくらいささやかに、電源とダンプと水道が準備された寂しいRVパーク。
管理者はどこに?
空き地の向かいに、ガスステーションと雑貨屋を兼ねたような店があり、どうもそれっぽい。
その店の方も、あまり繁盛している気配がない。
う~む…。
一口に 「RVパーク」 といっても、実にさまざまな種類があることを知る。
9号線を登ると森が始まった。
と同時に、道が右に左にうねるような弧を描き始めた。
「あ、日本だ」
と思った。
単調な直線路ばかり走っていると、ワインディングロードを見るだけで、もう日本に思えてしまう。
周囲の山に木が生えているという景観も、どこか日本的だ。
ザイオン国立公園のことを、
「緑の豊かな自然環境が特長で、乾いた大地を舞台とした観光地の多いグランドサークルの中では日本的だ」
と紹介したガイドブックもあった。
確かに、生物の匂いが希薄な、乾いた大地ばかり見てくると、この緑を擁した山々が生命を持っているような感じに思えてくる。
が、そういう風景は、最後の残照が空に残るような時間帯に見ると、かすかに怖い。
風景が、昼の素顔をかなぐり捨てて、夜の顔に変わる瞬間だからだ。
モニュメントバレーのような乾ききった光景は、神秘的に見えても、「何かが潜んでいる」 という実感とは遠いが、緑の多い湿った風景というのは、自然のなかに 「もののけ」 が潜んでいるという想念を呼び起こす。
太陽が完全に山の稜線に消えると、なんだか、日本の山道で迷ったときのような心細さが襲ってきた。
ザイオンに入る東ゲートにたどり着いたときは、夕闇が辺りを包む直前だった。 これより先に進むには、このゲートで入場料を払わなければならない。
しかし、料金所にすでに人影はない。
どうしたものか。
「そのまま行きましょう」
という小林さんの判断で、そのまま進入することにした。
ここを通過しない限り、今晩予定していたRVパークにたどり着くことはできないのだ。
道が少しずつ狭くなってきた。
しかも、コーナーがどんどんきつくなる。対向車線にはみ出さないと、カーブを曲がりきれない。
はじめて、31フィートというモーターホームの巨体を持て余す。
やがて、有名なトンネルに突き当たった。
この観光地がようやく整備された頃に掘られたトンネルで、大型観光バスやモーターホームの通行が想定されていない時代のものだという。
観光客が多い昼間は、レンジャーの指示に従って 交互交通が行われるという話もある。
トンネルを前にして、またしても突っ込むかどうかためらいが生じた。
トンネル前の空き地に止めてあった乗用車のオーナーに声をかけた。
「Can I go?」
乗用車に乗っていた若い夫婦が、自分たちのクルマから出てきて、しげしげとモーターホームを見上げる。
「分からないね。自分たちは、その奥まで入っていないから」
と、彼らはいう。
モーターホームをじっくり眺め回した旦那さんは、
「道の真ん中を通っていけば大丈夫じゃないかな」 という。
しかし、奥さんの方は、
「ヘイト (高さ) が問題だ」 という。
「天井にルーフが当たる」 と、心配げな表情だ。
ここを通過しているモーターホームがいっぱいあることを知っているので、慎重に走れば問題ないことは分かっているのだが、奥さんの言葉に少し不安になる。
迷ったが、旦那さんのいうことを信じて、トンネルに突入する。
確かに、天井が頭上にのしかかってくるような感じがする。
しかし、対向車の来ないタイミングを見計らって、道の真ん中を走ればまったく問題はない。
のろのろ走っている私たちのクルマを追いかける後続車も、事情を考慮してくれるのか、せっついてくる気配がない。
無事、トンネルを抜けたと思った瞬間、その後続車が突然サイレンを鳴らした。
レンジャーパトロールに捕まったのだ。
路肩に止めた運転席から、西部劇などでおなじみのハットをかぶった若い警官が近づいてくるのが見えた。
「○×△□……○×△□……」
なまりがあるのか、何を言っているのかさっぱり分からない。
「パードン、パードン…」
を聞き返しているうちに、苦笑いしたレンジャーの青年は、今度は端正な英語で、一語一語区切りながら話してくれた。
それによると、
「入場ゲートで料金を払っていないだろう。違反である。お前たちはもう一度ここに戻ってくるのか?」
と言っているようなのだ。
「いや戻らない。明朝にはラスベガスに行ってこのレンタルモーターホームを返さなければいけない」
私に代わって、小林さんがそう説明してくれた。
ペイジの修理工場で時間を食ってしまった私たちには、ザイオンをゆっくり見物できる時間はなかったのだ。
レンジャーの青年はそれを聞いて、またも苦笑い。
このエリアに留まって明日も観光するのなら、明朝ゲートがオープンしたときに入場料を払え、とでも言うつもりだったのだろう。
「OK、Go」
ただし、
「モーターホームはこの道では大き過ぎる。十分注意して走るように」
そう優しく忠告もしてくれた。
ウィンクするように、片目をつぶって苦笑いしたレンジャー氏の表情が印象的だった。
せっかくのザイオンを素通りかい?
そりゃ、さびしいね。
そう言っているようにも見えた。
コメント
この記事へのコメントはありません。
