2008年05月19日
砂漠の蜃気楼
世界は不況なのか、好況なのか。
「世界同時不況」 がマスコミを賑わせるような時代に、こういう映像を見せられると、世界は本当に不況なのか、好況なのか分からなくなる。
日曜日に放映されたHNKスペシャル 『沸騰都市』。
その第一回は、中東・アラブ首長国連邦の第二の都市ドバイ ( dubai) 。
ラスベガスを圧倒するような豪奢なリゾートホテル街に、目の飛び出るような金額の高級車を乗りつけて、笑いさざめきながら遊び回る世界の富豪たち。
高層ビルの谷間を縫うように走る広々としたハイウェイ。
海の上には、まぶしい陽光が生んだ幻覚のように、とてつもない規模の人工島が次々と浮上している。
夜。
大都市の上空から眺めおろすビル群のネオンは、宝石箱をひっくり返したようなゴージャスな光をまき散らし、さながら 「ブレードランナー」 の未来都市のような、妖しい輝きを放つ。
10年ほど前、そこはほとんど砂漠だったという。
視界に入るのは、砂の大地と大空の間を一本の線で区切る地平線だけ。
そこに、突然出現した 「未来都市ドバイ」 。
カメラは、ときどき、砂漠の彼方に、陽炎のように燃え立つ非現実的なビル群を、超望遠で捉える。
ナレーションでは、一言も語らないまでも、
そのカメラワークそのものが、
「ほら、砂漠の蜃気楼みたいだろ?」
と言っているみたいだ。
「蜃気楼」 という言葉から連想される “危うさ” や “はかなさ” を、言語では巧妙に排除しながら、映像でそれとなく暗示している。
NHKもやるもんだ。
現在、街の中心になりつつあるのは世界一の高さを誇るという 「ブルジュドバイ」 という超高層ビル。
高さ800m。160階建て。
今まで、世界一の高さを誇るビルが500mクラスだったというから、ブルジュドバイの地上800mは、「重力への挑戦」 、「神への挑戦」 でもある。

ビルの完成は2009年。
今も、4日に1階ずつのペースで上に伸び続けているという。
聖書に出てくる 「バベルの塔」 を連想した視聴者も多かったのではあるまいか。
なぜ、そんなに天空をめざすのか。
ドバイの都市計画プロジェクトを企画している企業の経営者は、この世界一の高さを誇るビルについて、こう語る。
「エベレストに2番目に登った人の名前は覚えているかい? 知らないだろ。ほとんどの人々はナンバーツーの名前など覚えていない。人々の記憶にのぼるのは、常にナンバーワンだけだ」
だから、ドバイではとにかく 「世界一」 が多い。
「世界最大の空港」
「世界最大の人工島」
南の海特有のエメラルド色に光る海上には、目にもまばゆい白砂に囲まれた島々が浮かんでいる。
その上には、大富豪向けのリゾートマンションやら別荘やらが続々と建ち並ぶ。
ここも、10年前には島影ひとつなかったただの海原。
それが、突如、南海の楽園に変身。
施工者はこの人工島をつくるために、世界中の山々を買占め、それを切り崩して、島の基礎を作る土石として海中に埋めたという。
ここでも、「神の創りたまいし自然の景観への挑戦」 という言葉が浮かんでくる。
イスラム教というのは、人間の神への挑戦を許す宗教だったのだろうか。
よく分らない。
ドバイの魔法を紡ぎだした原動力となったものが、中東のオイルマネー。
世界のエネルギー産業の中軸を担う石油資本を手にしたおかげで、砂漠のベドウィン族 (遊牧民) の首長たちは、世界一の富裕者になった。
彼らにとって、ドバイの繁栄を世界に見せることは、西欧列強に追い詰められてきたイスラムの栄光を取り戻す絶好の場であるらしい。
そう思うと、この街の抽象度の高い超人工的なたたずまいも、なんだか合点がゆく。
デザインコンペのカンプをそのまま実現したかのような、奇想天外の建物群。
ネオンと照明の角度によって、次々と変貌していく室内インテリアや庭園。
100%エンターティメントを目的とした、あのテーマパークさながらの生活空間というのも、宗教的なプロパガンダという側面があるとしたら、それなりに意味がありそうに思えてくる。
しかし、一方では、ドバイの繁栄は、一攫千金を夢見る世界の投資家たちの欲望によって支えられていることも、番組は明らかにする。
建築中のビルのワンフロアを、何十億という単位で買い取ったイラン人の投資家が画面に登場する。
「あのビルに人が暮らす頃を見計らって転売すれば、さらに4~5億円値が上がった状態で転売できるでしょう」
彼は、そのビルに住むのが目的ではない。
最初から転売したときの利益を計算して、ドバイの不動産を買い占めているのだ。
建築中の高層ビルでも、すでに各部屋がほとんど売り切れ状態になっているというのは、ほとんどがそのような業者の買占めによるものらしい。
バブルだ。
不動産取引のシーンに登場する男たちの姿も紹介された。
みな草食獣を食いあさる肉食獣の、精悍さと、獰猛さと、頼もしさと、うさん臭さをぷんぷんと漂わせる表情だった。
金儲けのへの執念。
そういう投資家たちの生々しい欲望を吸収しながら、実際に発展していくドバイという街は、どんどん抽象度を高めていく。
デザインと光が、人間の生活より目立つ街。
なんかすごい不思議だ。
上海の近未来風景も、このドバイに比べると、一気に色あせてしまう。
同じ時間帯に放映される 「ナルニア国物語 (ライオンと魔女) 」を観るつもりでいたが、このNHKスペシャルのドバイの映像を最初にちょっと見ただけで、もう釘付けになってしまった。
「ナルニア国物語」が、ファンタジー特有の奇想天外なシーンで満たされていることは容易に想像がつくが、それでも、地上に姿を現した現実のドバイのシュールな感覚に、とても追いつかないのではないかという気がした。
「世界同時不況」 がマスコミを賑わせるような時代に、こういう映像を見せられると、世界は本当に不況なのか、好況なのか分からなくなる。
日曜日に放映されたHNKスペシャル 『沸騰都市』。
その第一回は、中東・アラブ首長国連邦の第二の都市ドバイ ( dubai) 。
ラスベガスを圧倒するような豪奢なリゾートホテル街に、目の飛び出るような金額の高級車を乗りつけて、笑いさざめきながら遊び回る世界の富豪たち。
高層ビルの谷間を縫うように走る広々としたハイウェイ。
海の上には、まぶしい陽光が生んだ幻覚のように、とてつもない規模の人工島が次々と浮上している。
夜。
大都市の上空から眺めおろすビル群のネオンは、宝石箱をひっくり返したようなゴージャスな光をまき散らし、さながら 「ブレードランナー」 の未来都市のような、妖しい輝きを放つ。
10年ほど前、そこはほとんど砂漠だったという。
視界に入るのは、砂の大地と大空の間を一本の線で区切る地平線だけ。
そこに、突然出現した 「未来都市ドバイ」 。
カメラは、ときどき、砂漠の彼方に、陽炎のように燃え立つ非現実的なビル群を、超望遠で捉える。
ナレーションでは、一言も語らないまでも、
そのカメラワークそのものが、
「ほら、砂漠の蜃気楼みたいだろ?」
と言っているみたいだ。
「蜃気楼」 という言葉から連想される “危うさ” や “はかなさ” を、言語では巧妙に排除しながら、映像でそれとなく暗示している。
NHKもやるもんだ。
現在、街の中心になりつつあるのは世界一の高さを誇るという 「ブルジュドバイ」 という超高層ビル。
高さ800m。160階建て。
今まで、世界一の高さを誇るビルが500mクラスだったというから、ブルジュドバイの地上800mは、「重力への挑戦」 、「神への挑戦」 でもある。
ビルの完成は2009年。
今も、4日に1階ずつのペースで上に伸び続けているという。
聖書に出てくる 「バベルの塔」 を連想した視聴者も多かったのではあるまいか。
なぜ、そんなに天空をめざすのか。
ドバイの都市計画プロジェクトを企画している企業の経営者は、この世界一の高さを誇るビルについて、こう語る。
「エベレストに2番目に登った人の名前は覚えているかい? 知らないだろ。ほとんどの人々はナンバーツーの名前など覚えていない。人々の記憶にのぼるのは、常にナンバーワンだけだ」
だから、ドバイではとにかく 「世界一」 が多い。
「世界最大の空港」
「世界最大の人工島」
南の海特有のエメラルド色に光る海上には、目にもまばゆい白砂に囲まれた島々が浮かんでいる。
その上には、大富豪向けのリゾートマンションやら別荘やらが続々と建ち並ぶ。
ここも、10年前には島影ひとつなかったただの海原。
それが、突如、南海の楽園に変身。
施工者はこの人工島をつくるために、世界中の山々を買占め、それを切り崩して、島の基礎を作る土石として海中に埋めたという。
ここでも、「神の創りたまいし自然の景観への挑戦」 という言葉が浮かんでくる。
イスラム教というのは、人間の神への挑戦を許す宗教だったのだろうか。
よく分らない。
ドバイの魔法を紡ぎだした原動力となったものが、中東のオイルマネー。
世界のエネルギー産業の中軸を担う石油資本を手にしたおかげで、砂漠のベドウィン族 (遊牧民) の首長たちは、世界一の富裕者になった。
彼らにとって、ドバイの繁栄を世界に見せることは、西欧列強に追い詰められてきたイスラムの栄光を取り戻す絶好の場であるらしい。
そう思うと、この街の抽象度の高い超人工的なたたずまいも、なんだか合点がゆく。
デザインコンペのカンプをそのまま実現したかのような、奇想天外の建物群。
ネオンと照明の角度によって、次々と変貌していく室内インテリアや庭園。
100%エンターティメントを目的とした、あのテーマパークさながらの生活空間というのも、宗教的なプロパガンダという側面があるとしたら、それなりに意味がありそうに思えてくる。
しかし、一方では、ドバイの繁栄は、一攫千金を夢見る世界の投資家たちの欲望によって支えられていることも、番組は明らかにする。
建築中のビルのワンフロアを、何十億という単位で買い取ったイラン人の投資家が画面に登場する。
「あのビルに人が暮らす頃を見計らって転売すれば、さらに4~5億円値が上がった状態で転売できるでしょう」
彼は、そのビルに住むのが目的ではない。
最初から転売したときの利益を計算して、ドバイの不動産を買い占めているのだ。
建築中の高層ビルでも、すでに各部屋がほとんど売り切れ状態になっているというのは、ほとんどがそのような業者の買占めによるものらしい。
バブルだ。
不動産取引のシーンに登場する男たちの姿も紹介された。
みな草食獣を食いあさる肉食獣の、精悍さと、獰猛さと、頼もしさと、うさん臭さをぷんぷんと漂わせる表情だった。
金儲けのへの執念。
そういう投資家たちの生々しい欲望を吸収しながら、実際に発展していくドバイという街は、どんどん抽象度を高めていく。
デザインと光が、人間の生活より目立つ街。
なんかすごい不思議だ。
上海の近未来風景も、このドバイに比べると、一気に色あせてしまう。
同じ時間帯に放映される 「ナルニア国物語 (ライオンと魔女) 」を観るつもりでいたが、このNHKスペシャルのドバイの映像を最初にちょっと見ただけで、もう釘付けになってしまった。
「ナルニア国物語」が、ファンタジー特有の奇想天外なシーンで満たされていることは容易に想像がつくが、それでも、地上に姿を現した現実のドバイのシュールな感覚に、とても追いつかないのではないかという気がした。

「ドバイの貧乏人」 。いいですねぇ!
ひょっとして、流行語になるかも。
ドバイは、いま新富裕層のあこがれの街になりつつあるようですが、ある意味、世界中に広がる格差社会を考えるときの参考資料として、実に示唆的なテーマをはらんでいそうな街です。
さすが、目の付け所がいいですね。