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勝手にしやがれ

《昔の映画の現代的鑑賞法4
 「勝手にしやがれ」 》


 『勝手にしやがれ』 は、ジャン・リュック・ゴダールの代表作ともいえる映画だ。
 なんといっても邦題がいい!
 この映画の本質をずばり表現している。

勝手DVD

 話は単純。
 自動車を盗んで警察を殺してしまった男 (ジャン・ポール・ベルモンド) が、盗品の自動車をパリまで売りに来る。
 しかし、パリに出てきたものの、盗品を扱う地下組織と、なかなか連絡がつかない。
 その連絡がつくまでの、ベルモンドとその恋人との日常生活が映画のほとんどのシーンを占める。

 ベルモンドと恋人は、意味も深みもない、ぶっきらぼうな会話をダラダラと続ける。
 ところが、カットがめまぐるしく入れ替わるので、その会話自体が、ぶつぶつとコマ切れになる。
 つまり、2人の間では深刻であるべき会話なのに、その意味がどんどん軽くなっていく。

 要するに、観客に何かのメッセージを伝えるための会話ではないのだ。

 この映画では、それ以前に通用していた映画的文法がことごとく無視されている。
 たとえば、ベルモンドは恋人の部屋に勝手に転がり込んで、 「もう一度寝ようよ」 とお尻を触りまくる。
 
 女の尻を触るという描写は、それまでの映画だったら性的な意味を暗示するはずだった。
 しかし、ここでは尻を触るという行為が、あたかも背中を掻くように、あくびをするかのように、素っ気ない日常性の中に解消されている。

 一方、尻を触られた恋人は 「ダメよ」 と、ベルモンドの頬をバシリと叩く。

 女が男の頬を叩くのは、それまでの映像的な文法では男への絶望、プライドの回復、叱咤激励といった感情を暗示するときの表現だった。
 しかし、この映画に出てくる女は、反射神経のおもむくままに、腕に止まった蚊をツブすように男を叩く。
 男の方も、叩かれたことすら気づかい感じで、無造作に新聞を読みふける。

 美談美女の顔が大写しになって、甘いキスを交わすハリウッド的恋愛シーンになじんだ観客は、ここに描かれた恋人同士の交流に、なんともいえない不自然な思いを抱いたことだろう。

 しかし、考えてみれば、「映画のような出会い」、 「映画のような恋」、 「映画のような別れ」 があると思う方が、不自然なのだ。

 われわれの日常的なコミュニケーションというのは、たいていはゴダールの描いた男女のような形を取っている。
 誰だって、自分の行為に対する意味など深く考えてはいないし、相手の行為を深く詮索したりはしない。

 日常とは、そういうものだ。
 もし、相手の行為を鋭く詮索したり、自分の心を掘り下げたりするとしたら、それは非日常的な事態に陥ったときである。

 そういった意味で、ゴダール以前の映画は、 「非日常」 ばっかりだったともいえる。
 ゴダールの映像が新しかったのは、はじめて、人間のごく日常的な触れ合いをストレートに描ききったからだ。
 
 われわれは、俳優の動作一つ一つにそれぞれ意味があって、その意味を汲み取らなければ筋がつかめないという、それまでの映画の文法に毒され続けていた。

 しかし、人の行為には、すべて意味があるわけではない。逆に意味のない行為の積み重ねが、その人間の人生をつくっていく。
 ゴダールはこの映画で、そういう事例をクールに積み重ねていったにすぎない。
 
 ラストシーン。
 警察に見つかったベルモンドは、仲間から放り投げられたピストルを、うっかり拾ってしまったばっかりに、警察官に狙撃されてしまう。

 瀕死の主人公のもとに駆けつける恋人。
 ベルモンドは、その恋人の顔をニヤリと笑って見つめ、
 「お前はサイテーだ!」 
 と、一言ほえて死ぬ。

 誤解によって突然奪われてしまった人生。
 虫けらのような死。
 そして、観客が感情移入することのできない、カタルシスのないエンディング。
 この感覚こそ、ゴダールの新しさなのだ。

 それまでの映画では、主人公の死は、時に祖国の救済を意味し、恋人の命の身代わりなどを意味した。
 そういう “意味のある死” になじんだ人たちは、この意味のない死に、強い不条理を感じたことだろう。

 しかし、この不条理の感覚こそ、ヌーベルバーグの時代、サルトルやボーボアールが活躍して、実存哲学が花開いた時代の感受性でもあった。

 この映画が封切られた1959年。これを最初に見た人は、おそらく当時の映画を語る言葉では、この映画を批評できなかったに違いない。
 この 『勝手にしやがれ』 を語るには、それまでの映画に対する言説を捨て、新しい哲学と、新しい言葉が必要だったはずだ。

勝手1
 
 最後に一言。
 この映画の主役を演じたジャン・ポール・ベルモンドという役者には改めて敬服した。
 演技がどうこういう前に、最高にカッコいい。

 見かけはただのチンピラ。
 いつも帽子をアミダに被り、シャツの第二ボタンまでだらしなく外し、分厚い唇には、くわえ煙草を絶やさず、火をつけたマッチも吸殻も、あたりかまわず投げ捨てる。

 マナー最悪
 言葉は乱暴
 人品骨柄最低
 サングラスをかけると、どう見てもヤクザ以外の何者にも見えない。

 しかし、それが実に洒落て見える。
 100パーセント自意識のかたまりのように見えながら、実は100パーセント自己というものに頓着していないという、珍しいタイプの男を演じている。

 この映画の妙なさわやかさは、このベルモンドの演技によってかもし出されている。
 サングラスを取ると、まだ若かったせいか、ちょっとはにかみ屋の育ちの良さそうな表情がこぼれ出る。
 そこが、女の子ふうにいうと 「かわいい!」 。

 ゴダールは、新しい感覚を創造した映像作家かもしれないが、この映画に関しては、ベルモンドの演技に助けられているところが大きいと思えた。

音楽&映画&本 | 投稿者 町田編集長 02:51 | コメント(5)| トラックバック(0)
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コメント
ジャン・ポール・ベルモンドっていえば、当時の双璧はアラン・ドロンでしょうか? ベルモンドは、今風にいえばチョイワル。片やアラン・ドロンは正統の二枚目でスキがない。
私が思うに、ベルモンドの方が味があって粋ないいオトコと思いますがー。
ともかく、フランス映画絶頂期の頃の二人はいつもキラキラしていましたよね。そして音楽もいい。
ハリウッドにはない、お洒落でいて哀愁に満ちたフランス映画はいまどうなっているのでしょうね?
投稿者 スパンキー 2007/10/07 07:03
>スパンキーさん
おはようございます。早起きですね! 私はこれから寝るところです。
ジャン・ポール・ベルモンドとアラン・ドロンは、確かにあの当時のフランス映画の双璧でしたね。
チョイワルのベルモンドと、正統派のドロンという印象でしたが、実際はお坊ちゃんのベルモンドと、成り上がりのドロンという話もあるようですね。

アラン・ドロンも好きでした。でも、アラン・ドロンの映画は 「名場面あっても、名画なし」 という印象がなきにしもあらずです。
それに比べると、ベルモンドの方は、この 「勝手にしやがれ」 とか 「気狂いピエロ」 とか、ゴダール映画を支えた立役者でしたね。
ベルモンドの「粋」を評価するスパンキーさんも、なかなかの通ですね!
投稿者 町田 2007/10/07 07:31
前略。

さきほどはどうも。
ブログみました。

個人のページです。


http://yshr.jp/


荒野からの叫び  を載せたいと思います。

では、また。よろしく。
投稿者 しらかわ 2007/10/07 23:07
halo again

そういえば町田は若い頃パリへ云ってシャンゼリゼのカフェで近くに
ジャン・ポール・ベルモンドが座って居たけど
国柄かまわりの一般人が誰もジロジロ見て
特別視なぞしなかったと云っていたね。

あとイタリアに行って際味付けのりを喰っていたら
それはなんだと聞いてきたのでtaste of zen と
答えたこともあったと話していたな。

なんか昔のことはよく憶えているなぁ。
投稿者 しらかわ 2007/10/07 23:16
>しらかわさん
さっそくHP拝見しました。洒落たつくりのHPですね。カッコいいです!

ジャン・ポール・ベルモンド、とってもきさくな人でした。とっさのことで、サインしてもらえる紙も何もなかったんですが、小さな手帳があったので、それにサインをせがむと、豆粒のような手帳に、窮屈そうに大きな手をすぼめて、それでも丁寧に名前を書き込んでくれました。
そんな話、昔したことありましたっけね。

味付け海苔のこと、「テイスト・オブ・ZEN」とかいって外人に食わせた話、自分でも忘れていました。
本当に、しらかわさんの記憶力バツグンですね!
また、よろしく。
投稿者 町田 2007/10/07 23:43
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