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山口冨士夫の精神

 ちょっとだけ知り合いの人が作っている音楽系ブログを眺めていたら、そこに 「山口冨士夫」 という名前を見出して、懐かしい気分になった。

 ロックギタリストである。
 70年代に、 「村八分」 というバンドで活躍し、その音とパフォーマンスが神話として残った伝説の人だ。

 ▼ 一世を風靡した時代の山口冨士夫
山口冨士夫001

 が、その後…というか、全盛期においても、気分屋で、演奏にムラがあり、しかも、バンド解散後は刑務所暮らし (ドラッグ系犯罪) が多く、そして身体を傷めて闘病暮らし。
 人生の 「- (マイナス) 」 部分をすべて背負って生きてきたような人だった。

 ▼ 村八分
村八分002

 だけど、 「村八分」 の音楽はすごかった。
 ベースとなっているのは、ブルース、R&B、ロックンロールで、しかもそれを極めてオーソドックスなスタイルで演奏する。

 にもかかわらず、それがステージ上のパフォーマンスとなったときは、地獄のカマが開いたような亡者たちの饗宴となる。

 それは、どんな世界か?

 唯一のアルバムといわれる京大西部講堂でのライブを収録したときの曲名を拾ってみる。

 「あっ !!」
 「夢うつつ」
 「鼻からちょうちん」
 「のうみそ半分」
 「水たまり」
 「にげろ」
 「馬の骨」
 「ねたのよい」
 「んッ !!」
 
 こういう曲名を見ただけでも、彼らが何を追っていたかが分かるだろう。

 カッコいい英語とお洒落な日本語が混ざった耳ざわりのよい和製ロック。小粋なフレーズでヒット狙いをする和製ポップス。
 そんなものから、いったいどこまで遠ざかって行けるのか?
 それが、彼らのロックだったように思う。

 だから、村八分の音には、時代のメインストリームを歩むもの総てに向けられた 「嫌悪」 と 「軽蔑」 が感じられたし、 「血」 と 「退廃」 の匂いがした。

 女性器を、びくびくしながら、そぉっと開いてみたら、その奥に広がっていたのは 「暗闇」 ではなく、真っ赤に燃えさかる 「溶鉱炉」 だった、という感じの衝撃。
 そんなものが、心臓を直撃してくる音楽だった。

 「村八分」 の目指したものを、もっと分かりやすい形にしたものがパンクだ。
 彼らから数年遅れて、イギリスではセックスピストルズがデビューした。

 だから、村八分のことを 「パンクの先駆者」 などと表現をする人がいるかもしれない。
 しかし、あの頃の彼らだったら、パンクという “くくられ方” をされること自体に反発しただろう。

 実は、私自身は、そのライブを見たことがない。
 学生時代に、ちょっとバンドを組んでいた男が、そのおっかけをやっていて、そいつから聞かされた話がメインとなっている。

 一度はその伝説のライブを見たいと思っていたけれど、それもかなわぬうちに彼らは解散。
 結局、 “唯一のアルバム” と後にいわれることになる 『村八分 ライブ』 を買って、それをターンテーブルに載せて聞くしかなかった。

 やがて、レコードプレイヤーも家から消えて、彼らの音も身辺から遠ざかった。

村八分ライブジャケ

 そんな状態が、もう30年以上続いたのかな。
 だから、その音楽系ブログを読むまで、 「山口冨士夫」 という名前も忘れていたし、 「村八分」 というバンドの音も忘れていた。

 しかし、その音楽ブログを開き、そこに 「山口冨士夫」 の名を見出したとき、
 「ああ、生きてたのか」
 って感じのため息が漏れた。
 彼の公式ブログへのリンクが張ってあったので、さっそく飛んでみた。

 「復活ライブ」
 そんな見出しが踊っていた。
 長い闘病生活から抜け出し、最近また音楽活動を再開したらしい。

 1949年生まれというから、いま61歳。
 最近の写真を見て、深く刻まれたシワに、一種の凄みを感じた。

 「これがロッカーの顔だ」
 そう思った。

山口冨士夫002

 YOUTUBE経由で張られたライブを見て、さらに凄みを感じた。

 「これがロックだ」
 そう思った。

 ちょっと、往年のルー・リードを思わせる、気怠い立ち居振る舞い。
 出す音も、昔のパワーみなぎる音ではない。
 しかし、ロックというのは、
 「音楽形式のことではなく、生き方だ」
 という主張が伝わるような演奏だ。

 いい意味で、へろへろ。
 いい加減。
 だけど、なんか怖い。

 表面は、ミズスマシが浮いているような涼しげな池なんだけど、ちょっと足を踏み入れると、ドロドロした藻が足に絡みつき、奥へ奥へと引っぱられる感覚。

 そんな音だ。

 ▼ いきなりサンシャイン


 山口冨士夫のギターからは、まさにロックを感じる。
 言葉でそれを伝えるのは難しいけれど、自分が 「感覚として知っているロック」 というのは、こういうものだ。

 つまり、永遠に 「未完の音楽」 。
 完成形を目指すために演奏するんだけれど、演奏し終わった時点で、完成形がさらに先延ばしになっちゃう音楽。
 追いついたとたんに遠のいていく “陽炎 (かげろう) ” のような音楽。
 ロックってのは、そんなもんだと思う。

 だから、その “陽炎” を生涯追い続けてきた人間には、凄みが出るのだ。
 彼の人生は、死ぬまで完結しないわけだから。

 で、山口冨士夫のブログには、最近の記事として、こんなことが書かれていた。
 タイガーマスクの主人公 “伊達直人” の名で、児童養護施設にランドセルを寄付した人のニュースに触れたものだ。

 …………………………………………………………………

 この所のタイガーマスク (伊達直人さん) のように、生きたいなあ……。
 俺も、60年以上前の第二次大戦の、犠牲者なのです。 (※引用者註、彼には黒人の血が混じっており、孤児院で育った)
 差別され、馬鹿にされて、辱めばかりの小学生だったんだ。
 小学校2年の時には、ナイフまで突きつけられたんだよー。
 今ではハーフとか言われてもてはやされてるが、当時は、ヤバかったなあ……。
 何しろ敵の子。
 いじめな~んてものではなかったんだ。
 殴られ、ユメを奪われて、差別もすごかった。
 俺たちが入ってゆくだけで、ラーメン屋の客が、まるでゴミを見るみたいに、黙って皆なが、出てゆく……。
 そんな世の中だったんだ。
 ブルースだなあ。
 学校では、ボロ服着てさ、ランドセルも、ぼろぼろ。
 だから毎日ないていたんだ。
 だから、ロックンロールによけいハマッていったんだ。
 今の子たちも、事情はちがっても、にたようなものだろうな。
 皆んなが大変な思いをしていることは、とても、辛いな。
 そこに、タイガーマスクが、あらわれた。
 すごいよー! だから、昔からのみんな出ておいでよー! 感謝しようよ。
 最近のヒドイニュースの中で、もし、これが、本当なら、すごいことだと思ってます。
 堂々と生きようよなあ。タイガーマスク有難う。

 …………………………………………………………………

 ところが、このランドセル寄付騒動は、一部のメディアからは批判や揶揄にさらされている。

 「昭和の感性を脱しきれない、時代錯誤的な偽善」
 とか。

 でも、そういうことを言ってるヤツらの方が、よっぽどアタマの中が “昭和” しているよ。

 どうして、メディアの中枢で発言する人たちは、ちょっと斜 (はす) に構えた見方をカッコいいと思ってしまうのだろう。
 そんな斜めに構えたスタンスは、偏差値秀才が、 「庶民にモノの見方を教えてやろうか」 と、その “優秀なアタマ” で思いついただけのこと。
 ボロボロのランドセルしか持たされず、差別され続けてきた山口冨士夫の心境などには思い至らない。

 だけど、本物の 「血」 と 「退廃」 を知っている山口冨士夫は、タイガーマスクにストレートな賛辞を送る。

 遊戯的な語り口で社会を斜めに見るインテリたちには、その彼の凄さが分からない。

 山口冨士夫、そのうちライブに行くからな。

 ▼ 伝説の 「村八分」 時代の演奏 『水たまり』
   こういうオーソドックスなミディアムテンポのブルースもカッコいい。




音楽&映画&本 | 投稿者 町田編集長 03:11 | コメント(6)| トラックバック(0)
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コメント
こんにちは。
何度目かのコメントになります。ゆんたです。

私も、「偽善」だろうが何だろうが自分の手足を使って行動した人には賛辞を送るべきだと思います。

実際に助かっている人がいる。それでいいじゃないかと。
偽善であろうと、
「無い」よりずーっといいと思うし、
偽善って何?とも思います。

何より、
その影響で実際に動いてみようと思える人に
働きかけることができたのはとても意味のあることだと思います。
口で偽善を語るのは簡単だけれど、
実際に自分が労力使って行動するというのは
なかなかに大変な決断とか勇気も必要だと思うのです。


ただ、テレビでこどもにマイクを向けてお礼を言わせるのはどうかと思いました。
こどもたちが「お礼を是非言いたい」と言い出したのならともかくとして。
今も普通に学校や保育園に通っているわけですしね。
明日も学校はあるわけですしね。
子供社会にも少し配慮してあげられる報道であってくれれば、と思いました。
投稿者 ゆんた 2011/01/23 12:17
「村八分」ってそういうバンドだったのですか。

大木さんが載っている古い雑誌などを集めていて、このバンドの名前を見かけたことがあります。
強烈なバンド名ですが、中身は名前よりもっと凄かったということでしょうね。

以前、町田さんが私を「ジャーナリズムの感性を持っている」と評されたことがあったような気がします。
その時は、「?」と思ったのですが、
この頃、私はファンとは違うような気がしてきました。
「人物」に対する興味。なのでしょう。

高校時代の同級生の息子がバンドマンになったそうです。
超有名大学を出て。
自分自身も秀才の母親(私の元同級生)は嘆いているかと思いきや、バンドを応援しています。
時代が変わったのかなぁと思います。

バンドの世界で偏差値秀才であることがじゃまになりはしないかと私は危惧しているのですが。
投稿者 ムーンライト 2011/01/23 14:25
>ゆんた さん、ようこそ。
ゆんたさんの生き方に共感します。(ちょっとブログ拝見させていただきました)。

やっぱり、うまい言葉で飾ったりせずに、自分の体ごとブチ当たっているブログというのは魅力あります。ゆんたさんのブログもそのようなものであると思いました。

で、このタイガーマスク報道を行ったメディアには二つの反応があったように思うのですが、テレビ系は 「パチパチめでたし!」 が多かったんだけど、ゆんたさんがおっしゃるように、子供たちにお礼をいわせて、美談であることを強調する感じで、ちょっと空々しい感じがしましたね。

反対に、週刊誌系は、「偽善」 という言葉まで使わないにせよ、ちょっと皮肉っぽい視線で、斜 (はす) に構えた記事を書いていたように思います。

だけど、山口冨士夫さんの感想が、いちばんストレートに響いてきました。
それで、この村八分の記事を書く気になりました。
 
投稿者 町田 2011/01/23 21:59
>ムーンライトさん、ようこそ。
「村八分」 というバンド名は、確かに ギョッとしますね。たぶん、小さいころ実際に村八分だった経験を持つ山口冨士夫さんの心境を表したものだったんでしょう。

あるミュージシャンへの憧れとか、心愛の情というのは、最後は相手の 「人物」 にたどり着きますね。その人がどういう人か分かったとき、ただ 「音がいい」 とか 「ルックスがいい」 とかいう表層的な評価を超えて、ずっと 「後を追っていきたい人」 という気持ちが生まれてくるように思います。

昔から音楽をやっていた人たちというのは、その部分がわれわれにも見えやすい。
最近の新人のミュージシャンは、まだその部分が見えにくい。
自分が昔の人たちの評価に傾きがちなのは、単にそういうことかもしれないと思うことがあります。

お友達の息子さんがバンドマンになったというお話。
いいことじゃないでしょうか。
今の若い人たちは、将来に不安を感じて、将来的な安定性を求めるために、大企業志向が高まっているという話をよく聞きますが、その息子さんは、音楽の力で人に元気を与えようとしているわけで、それは素晴らしいことだと思います。

「今の世の中、音楽じゃメシを食えない」 というのが一般的な大人たちの反応だと思いますが、そういう 「世の中を変えてやろう」 というのであれば、音楽に向かうのも大いにアリだと思います。
 
投稿者 町田 2011/01/23 22:30
こんばんは、elです。

以前より町田さんの音楽論(?)には感心させられていました、
今回は「村八分」ですか、、、素晴らしい!
私は「頭脳警察」も好んで聞いていました(古)!

その頃のミュージシャンは山口不二夫氏のような方ばかりだったように思います、その音楽に惚れ、追求していくうちに
その音楽のバックボーンにある環境を体験したくなる。
と、言うよりも体験しないと理解できないと考えるようになる。

今の若い世代のミュージシャンには見られない世界です、
ジミヘンは「伝説」だけの方が良いのかもしれません。

いつも楽しい記事をありがとうございます、
益々のご活躍を念じます。
投稿者 el (エル) 2011/01/26 19:48
>el (エル) さん、ようこそ。
「頭脳警察」 という名前が出てきて、なんだかとても el (エル) さんのことが身近に感じられるような気がします。
学生の頃、一度だけ 「頭脳警察」 のライブを見ています。聴衆をアジテートするような過激な歌詞を持つ歌が中心でしたが、 「さようなら世界夫人よ」 というバラードなどには、彼ら独特の叙情性もあって、けっこう好きでした。

「頭脳警察」 と 「村八分」 はルーツとなる音楽性に共通したものはありませんでしたけれど、とんがった思想性を持っていることは同じで、どちらもヒリヒリするような孤立感を大事にしていましたね。

そういった意味で、同じ時代精神を体現していたグループだと思います。
コメントありがとうございます。
 
投稿者 町田 2011/01/29 01:56
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