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夫婦円満の秘訣

 RVビックフットの牧瀬芳一社長と奥様の美恵子さんは、業界でも評判のオシドリ夫婦である。
 イベント会場には必ずお二人で一緒に来られるし、ショーが終われば、仲良く肩を並べて帰られる。

牧瀬ご夫妻001

 二人の間には笑顔が絶えない。
 すでに、お孫さんまでいると聞いているが、いつも新婚ホヤホヤのような雰囲気が自然に漂ってくるお二人。

 その仲の良さは、いったいどこから生まれてくるのか?
 実は、個人的にも、それが少々不思議 (…失礼) でならなかった。 

 その秘密が分かってしまったのだ。

CCS東松山

 先だって、RVビックフットさんの直営店 「キャンピングカーステーション東松山」 を訪れたとき、社長の隣りに座って、取材後の雑談に応じられた奥様と牧瀬社長の会話を聞いていて、
 「あ、そういうことだったのか…」
 と、分かってしまったことがある。

 シンプルな結論だった。
 キャンピングカーを軸とした夫婦。

 「商売」 という意味ではなく、文字どおり 「ユーザー」 として、常にキャンピングカーを軸として結ばれていたご夫婦だから…というものすごく単純なことに思い至った。

 つまり、このお二人は、 「夫婦の仲を取り持ち、家族の絆を強めるキャンピングカーの力」 を、理屈ではなく、反射神経を養うように自然に身につけて来られたのだ。
 それまでは、キャンピングカーで寝泊まりするよりも、ホテル住まいの方がお好きな方々かな…と勝手に思い込んでいたのだが、それは勘違いのようであった。

牧瀬芳一社長005

 牧瀬芳一社長が、自分で使うためのキャンピングカーを造り始めたのは、25~26歳の頃だという。
 今から35~36年ほど前の話だ。

 それは、どんな時代だったのか。

 1975年にようやくベトナム戦争が終結し、その翌年にロッキード事件で、首相まで務めた田中角栄が逮捕されたりした時代。
 成田空港が開港され、自動車電話がようやく普及し、若い女性デュオのピンクレディーがデビューを果たす。

 もちろんその頃は、まだプロのキャンピングカービルダーなどほとんど存在せず、国産キャンピングカーといえば、好きな人がハンドメイドで仕上げた車両がわずかに存在しているに過ぎなかった。

 牧瀬社長も、そんなハンドメイドのキャンピングカーを造るアマチュアの一人としてスタートを切る。
 最初は、初代のハイエースを改造して。
 次は、コースターに手を加えて。

 目的はもちろん 「旅行」 。
 すでに結婚されて、お子様もいらっしゃった。

 「下の娘が、まだオシメしていましたからね。紙オシメがない時代でしたから、クルマのキャリアに干したり、室内で自然乾燥干させながら旅していましたよ」
 と牧瀬氏はいう。

 もちろん、将来キャンピングカーを造って、売るなどということは、まだ考えてもいない。
 ただ、時間を自由にやりくりできる自営業の “特権” を活用し、子供さんの夏休みなどに合わせ、1ヶ月から1ヶ月半ぐらいのサマーバケーションを毎年取っていたという。 

 現在ではリタイヤしたシニアカップルを中心に、キャンピングカーで1ヶ月を超える長期旅行を経験している人は多い。
 しかしこの当時、家族で1ヶ月半も放浪の旅を楽しんだユーザーというのは、そうとう珍しい部類に入る。

 あまりにも家を空け過ぎたがゆえに、とうとう奥様の実家が警察に捜索願いを出したこともあるとか。
 まだ、携帯電話などがない時代。
 地方でも田舎に行くと、公衆電話も少なかった。
 連絡を取り合うということが、いかに大変だったかを語るエピソードのひとつかもしれない。

 それだけの長い期間、いったいどんな旅行を楽しんでいたのだろう?

 「捜索願いが出されたというのは、ちょうど30日かけて、関西から九州を回っていたときのことでしたけれど、子供たちは普通に生活していましたよ。
 自分たちで時間を管理しながら、しっかり宿題や勉強をしていましたね」

 どんな場所に泊まり、どんな観光を楽しもうとも、お嬢さんたちは家にいるときと同じように勉強する時間を確保していた、と牧瀬さんはいう。
 ただ、それが普通の環境と違うのは、 「草原の教室」 だったり、 「木漏れ日の教室」 だったりしたことだ。

 「森の木陰にクルマを停めて、僕は朝からビールなどを飲んでいるんですが、娘たちは午前中の涼しい時間のうちに、車外にテーブルなどを出して勉強をしていましたね。
 彼女たちだって午後は自然の中で遊びたいから、昼前は一生懸命に勉強していましたよ」
 と、牧瀬さんは昔を述懐する。

 旅する家族の優雅な日常が伝わってくるような話だが、この時代、キャンピングカーに対応するようなサイトを持ったキャンプ場は少なかった。
 もちろん、今のような 「道の駅」 などというものもない。

 はて、いったいどんなフィールドに泊まっていたのだろうか?

 「今と違って、昔は豊かな自然に囲まれた空き地のようなものがいっぱいあったんですよ。
 キャンピングカーも少なかったから、マナーさえ守っていれば、土地の人たちもにこやかでしたね。
 町中に入ってきたときは、まず町役場や村役場を訪ねました。それから市民会館。
 そういうところの駐車場は夜になるとガラ空きでしたし、夏休み期間などは昼間からお休みモードなんです。
 だから、 “観光に来たんですけど” と声をかけておけば、たいてい “ゆっくり休んでいってください” と大歓迎されましたね」

 ……と話しているときに、奥様の美恵子さんが加わった。

牧瀬ご夫妻002

【奥様】 ほら、いちばん記憶にあるのは、もう使わなくなった北海道の鉄道の駅があって、星が宝石みたいなの。あれ、北海道のどのへんだったかしら…
【牧瀬】 確かサロベツ…あっちの方だったな。
【奥様】 とにかく4人でね、ずっと寝ころがって、星ってこんなにきれいなものだったのか! って…。
 とにかく、あれほど星を近くに感じたことがなかったんです。
 手を伸ばせば届きそうな位置まで星が降ってくるんですよ。
 もう家族4人でね、いつまでもうっとり夜空を見上げたまま……あれ、忘れられない旅だったね。

 こんな会話が、日常会話としてさっと出てくるご夫婦なのである。

【奥様】 ……富山の方を旅していて、道に迷ったことがあるんですよ。淋しいところで、おまけに霧が深くて、出てきた標識に 「人喰い谷」 って書いてあるのね。
 その字の書き方が、もう “八つ墓村” みたいで、怖いのなんの… (笑) 。
 ところがそれを抜けたところが、あの (今は小さな世界遺産の村として有名な) 五箇山だったんです。

五箇山

 当時はまだ有名じゃなくて、素朴な村だったんですけど、ほんとうに美しい景色が見えてきてね。
 そのとき “人喰い谷” を通ったからこそ、別の世界が開けたと思ったの。
 まるで、そこがタイムマシンのゲートみたいになっていて、タイムスリップしたと思ったくらいでしたよ。
 ほんと、キャンピングカーの旅って、スリルと感動が裏表になっているような、不思議な体験をたくさんもたらせてくれるんですよ。

 そんな思い出を数多く重ねているから、夫婦の呼吸はピッタリ!
 奥様は、そう伝えたいのかもしれない。

【奥様】 一緒に生活していると、ときどき 「もう離婚してやる!」 なんて思うことがあるんですよ。
【牧瀬】 まぁ、いつも一緒に仕事しているからね。イライラすることもあるよ。
【奥様】 でも、そういうときは、もう何も考えず、二人で旅に出るの。
 そうすると、氷のツララみたいにとんがっていた気分が、キャンピングカーに揺られているうちに、ポタポタと溶けていくのが分かるんです。
 なんであんなにピリピリしていたのかな…とやがて思うようになるんです。

 (↑) この奥様の一言!

 これぞまさしく、夫婦円満の秘訣が凝縮しているような、究極の言葉ではないだろうか。

 「家族の絆」 を確かめようと始めたキャンピングカー旅行。
 それが、 「夫婦の絆」 を確認するための旅に変わった。
 一緒に旅したお嬢さんたちも、今は嫁いでそれぞれ別の家に入り、そのお孫さんたちが中学生になろうとしている。

 そして、その嫁ぎ先にはみなキャンピングカーがあるという。

 「やっぱり、キャンピングカー旅行は本当に楽しいものだということが分かっているから、娘たちの家族にもそれが受け継がれたと思うんです。
 そしてその恩恵を、今度は孫が受けているわけですね。
 そう思うと、キャンピングカーを一度持った家族というのは、それをDNAのように伝えていくのかなぁ…とも思います」
 と奥様は語る。
 
 子供たちが巣立って、新婚当時のシンプルな家族構成に戻った牧瀬夫妻。
 それでも自分たちの旅行スタイルは変わらないという。

 奥様がいう。
 「私たちは、事前に旅の “情報” など集めないんです。
 だって、仕事の過密スケジュールから逃れるために出る旅なんですもの。旅までスケジュールにとらわれたくないんです」

 すると、牧瀬社長がすかさずツッコミ!
 「それは、単にわれわれが “計画的な人生” というものを理解していないだけかもしれないよ (笑) 」

 いい呼吸である。

 その牧瀬社長は、旅をどう考えるか。

 「今の人たちはネットで情報を集め、地方のイベントなどがあれば、それを見事なタイムテーブルに仕上げてスケジュールを組む人が多いですね。
 でも、旅というのは、そういう計画性を裏切るところが面白いんであってね、本来、旅というのは計画的には進まないものだと思っているんです。
 まさに、人生といっしょ……」

 だから、ついつい 「偶然」 を求める旅のスタイルになってしまうという。

 牧瀬さんたちの旅は、次の3点が基本方針となる。
 ① 高速道路は使わない。
 ② 一般道でも、幹線道路は走らない。
 ③ 観光バスがひんぱんに来るような場所には行かない。

 ひたすら 「脇道に逸れる」 のだという。
 だから、国道でも、走るのは3ケタ国道。あるいは県道。ときには農道も。

 「そうするとね、いい場所がいっぱい出てくるんですよ。
 とても美しいところなんだけど、地元の人たちが、その “美しさ” に気づいていないというのかな…」

キャンピングカーと雲007

 つまり、観光ガイドが取り上げる人気スポットではなく、誰にも悟られず、魔法の眠りにひっそりと守られたような風景。
 そんな場所を探すことが、牧瀬ご夫妻のキャンピングカー旅行の目的なのだ。

 奥様が、こうつけ加える。
 「この前ね、本にも載っていないような道の駅を見つけたんです。
 そしてクルマの中で目を覚まして、畦道みたいなところを散歩しているとね、澄んだ川の畔に、きれいなお花が咲いていて、野生のクレソンがおいしそうに生えていて。
 あんまり気分が爽やかなものだから、すれ違った人に “おはようございます” って挨拶したら、その人が、 “どうか、お茶飲んでいってください” っていうの!
 見ず知らずの方なんですよ!」

 都会では、すっかりなくなってしまった見知らぬ人同士の挨拶。
 そして、挨拶の後で交わされる交流。
 それが、まだメディアにも紹介されていないような地方には、美しい景色とともに残っている。

 「まるで 『日本昔話』 のような里だった」
 と、奥様はいう。
 
 民話のなかに流れるような、ゆったりした時間。
 土地の人々のきめ細やかな心づかい。
 胸がキュンと疼くようななつかしい匂い。
 そして、木々の色が目からしみ込み、心までグリーンに染めていくような美しい自然。

 そういう 「場」 を発見することは、キャンピングカー旅行以外にはできない。

 牧瀬ご夫妻の話を聞いていると、そんなメッセージがしっかり伝わってくるように思えた。



コラム&エッセイ | 投稿者 町田編集長 20:05 | コメント(0)| トラックバック(0)
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